2020年8月号

不確実性に着目し起こりうる未来に備える
シナリオ・プランニングが拓く次の世界

7/1発行の季刊『Sun』第29号(一般社団法人日本介護福祉経営人材教育協会)の特集「新型コロナ後の経営戦略」に、「イノベーション旋風を巻き起こす介護経営の未来」というタイトルで寄稿しました。
予測や計画という単一の未来予測が立てられない新型コロナウイルスの感染拡大という状況のもと、不確実性を前提とし、起こる可能性のある複数の未来を描き出していく「シナリオ・プランニング」(Scenario Planning)という手法をご紹介したところ、多くの反響がありました。

シナリオ・プランニングという手法は、第2次世界大戦中にアメリカ軍が軍事戦略を練るために、可能性のある未来展開を予想するストーリーを組み立てていくという思考実験に端を発しています。
1970年代、石油メジャーのロイヤル・ダッチ・シェル社が石油危機を乗り切る際に活用したことで、一躍注目を集めることになりました。
    【モンフルー・シナリオ(南アフリカ)】

この「シェル・シナリオ」のプランナーの一人だったアダム・カヘン(Adam Kahane)が関わったのが、南アフリカ再建のための「モンフルー・シナリオ」(The Montfleur Scenarios:1991-92年)です。
当時の南アフリカは、アパルトヘイト政策の廃止を宣言し、牢獄からネルソン・マンデラを釈放し、少数派の白人による政権から多数を占める黒人の政権への以降をめざしていました。
しかし議論は百出し、具体的な政策決定は困難を極めていました。
そこで「南アフリカの政権移行はどう進むのか」「国は再出発することに成功するのか」という問いを立ててシナリオ・プランニングを活用することになりました。
その結果、左図のように「ダチョウ」「足の悪いアヒル」「イカロス」「フラミンゴの飛行」と名づけられた、南アフリカの政権移行を考える4つのシナリオが完成しました。

シナリオ・プランニングを実施するうえで気をつけなければならないポイントは
マトリクスを作成するうえでの重大な「変数」を選ぶこと(モンフルー・シナリオでは「decisive」かどうかと「representative」かどうかという2軸)
シナリオに確率や願望を持ち込まない
ということです。

従来型のシミュレーションや計画とは根本的に異なっているため、簡単な作業ではありません。
中土井 僚氏(オーセンティックワークス株式会社代表取締役)は、シナリオ・プランニングの目的は「脳内地図を書き換えること」だと述べています。

医療や介護事業における「ウイズ・アフターコロナのシナリオ」を作成する場合に注意しなければならないのは、「新型コロナウイルスがもたらした影響とそれ以外の要因を見誤ってはならない」という点です。
例えば、経営悪化や倒産、廃業の増加が起こるとすれば、この現象の真の原因は果たして新型コロナウイルスなのかを検証しなければならないということです。
「すべてはコロナのせい」と片付けてしまうのは、思考停止にすぎません。
今回のコロナ禍が、これまで覆い隠されていた弱みや欠陥をあらわにしたという可能性に思いを至らせることが必要です。

さらに、ステークホルダーが一堂に会して一緒に対話できれば、個別企業や事業の未来だけでなく、業界や社会全体の相互に望ましい未来を共創する可能性も生まれてくると思われます。

                                  株式会社ウエルビー 
                                  代表取締役 青木正人

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