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共通の未来を損なう無謬性信仰

2018年11月号

11月1日付の日本経済新聞に「ボルカー氏が残す警鐘」というタイトルで、米国版フィナンシャル・タイムズのジリアン・テット編集長が、元米連邦準備理事会(FRB)議長ポール・ボルカー氏から託された以下のようなメッセージを寄稿しています。

ボルカ―氏は「私が育った時代(1950年代)は、『良い政府』というのは皆が響きのいい言葉だと捉えていた。しかし今や『良い政府』という言葉は、あざけりの対象でしかない」と嘆いています。
彼が次世代に残したいメッセージとしてトップに挙げるのは、金融や経済ではく「パブリックサービス、つまり公務員の仕事の重要性を理解してくれること」だということです。

わが国においても、公務員、官僚や政治家、政府に対する信頼の凋落は目を覆うばかりです。
土居丈朗・慶應義塾大学経済学部教授は、「EBPMの前にすべきことがある」と題する論考で、社会保障改革を今後進めてゆく上で欠かせないEBPM(Evidence-Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)の推進が形骸化する可能性について懸念を表明しています。

EBPMがわが国に定着しにくい最大の要因に「行政の無謬性へのこだわりの強さ」を挙げています。
行政の側は、各省庁で立案しいったん決定した法案や政策は正しいものであり、野党等からの批判は的を射ていないという態度をかたくなに守ろうとします。

EBPMが機能するためには、科学的根拠に基づき、過去の政策が失敗であったことや現在の既得権益者に不利になるような政策を講じることが国民全体にとって望ましいことなどが明らかにされれば、行政当局は前例や慣習を覆して政策転換をしなければならなくなります。
他方、国民の側も、政府に間違いを許さない姿勢が強く、役所が過ちを犯すとすぐに「責任者出てこい」となりがちです。たまには行政も間違うこともあるという認識が広く共有されれば、行政府も間違いを改めやすくなるだでしょう。

互いに自らの立場や短期的な利害に固執するあまり、われわれは違い以上に共通の利益や想いのほうがより大きなものであることを見逃してしまいがちです。
ボルカ―氏のメッセージは、日増しに強まるように見える「分断」を断ち切る智恵を授けてくれるものです。

 株式会社ウエルビー
 代表取締役 青木正人