介護の社会化が社会を救う!(2024年4月)

介護の社会化が社会を救う!
9兆円の経済損失、女性の介護負担増を解消

今日から新年度が始まりました。
介護保険サービスは、医療系サービスを除き、新報酬が適用されます。
2024年度介護報酬改定の最大のショックが、訪問介護の基本報酬引き下げです。
今後、中小零細事業者を中心とした事業への影響が懸念されます。
それ以上に憂慮されるのが、要介護者を抱える家庭や仕事をしながら家族等の介護に従事するビジネスケアラーへの負荷です。
介護報酬減が、ホームヘルパー不足に拍車をかける可能性はぬぐえません。

介護職員の賃金の推移  出典: 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」

厚生労働省の「賃金構造基本統計調査:2021年」では、同年の全産業平均の1月当たりの賃金は36.1万円に対して、介護職員は29.3万円とその差は6.8万円となっています。
政府による処遇改善策によりいくらか差は縮まりましたが、その差は大きく、今年度の春闘による一般企業の賃上げ情勢からみると、その差は広がるものと考えられます。

一方、2002年から2022年までの20年間に、50歳以上の女性就業者数(全産業)は930万人から1,275万人へと4割増加しており、とりわけ特に65歳以上の就業が大きく伸びています。
団塊の世代による人口のボリュームゾーンが50歳以上にシフトしたことに加え、就業率が大きく伸びていること(60~64歳では37.8%から63.8%、55~59歳では56.7%から74.7%上昇:2000年対比)がその要因です。
この背景には、配偶者の賃金の伸び悩み、高年齢者雇用・就業の促進、健康寿命の延伸などが考えられますが、介護保険サービスによる介護負担の軽減も要因の一つとして挙げられます。
介護保険制度創設による「介護の社会化」の成果と言えるでしょう。

しかし、経済産業省によれば、2030年には家族を介護する833万人のうち、約4割(約318万人)がビジネスケアラーとなると予測され、労働力人口当たりのビジネスケアラーの割合は、労働力人口の21人に1人となる見込みです。
加えて、介護者が家族介護にかける時間は男女ともに1日2時間余りで、現役世代の可処分時間を大きく減少させています。
また、厚生労働省の雇用動向調査によると、2022年に離職した人は約765.7万人、そのうち個人的理由で離職した人は約563.0万人でした。
そのうち「介護・看護」を理由とする人は約7.3万人です。
男性は約2.6万人、女性は約4.7万人と女性のほうが多く、性・年代別に「介護・看護離職」の割合をみると、男性・女性ともに「55歳~59歳」でもっとも高くなっています。

50歳以上の女性就業者が介護離職した場合の推定損失額  出典:岡元真希子「介護の社会化と介護人材確保に向けて」株式会社日本総研

介護をしながら働いている50歳以上の女性の半数が、介護サービスを利用できなくなり親や配偶者の介護のために離職するとどのような影響を及ぼすかを株式会社日本総研が推計しています。
ケース1は、働きながら介護をしている50歳以上の半数が離職すると仮定した場合で、離職者数は54万人、賃金総額は1.3兆円規模
ケース2は、介護保険制度導入初期で介護サービスが現在ほど普及していなかった2003年の全国家庭動向調査をもとに算出したもので、有業から無業に移行する人数は25万人、賃金総額は6449億円
と推計されています。

2030年における経済損失の推計  出典:経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」

さらに、仕事と家族等の介護との両立が困難になることの影響は個人的なものにとどまりません。
前述した経済産業省の調査では、介護離職や介護発生に伴う物理的、精神的負担等によって引き起こされる労働生産性の低下(経済損失額)は、現状のままでは2030年には約9兆円に上る見込まれています。
こうした損失額を減らすことは、社会全体が対応すべき重要な課題と言えます。
介護人材不足という供給制約により、介護サービスと家族介護を組み合わせながら就業継続するという働き方が困難になれば、介護離職による労働力人口のさらなる減少という負の循環に陥りかねなません。

就業していない女性に家族介護の負担が集中すると、体力的にも精神的にも負荷が大きいうえに、キャリアアップの機会を逃し、将来受給する老齢年金が減少するなど人生設計にも大きく影響する懸念があります。
少子化により、親を介護する個人の負担はますます大きくなっています。
さらに未婚化や子どもを持たない夫婦の増加により、子による介護を期待できない人が増えています。

社会全体が、こうした課題に向き合っていくためには、産業界による仕事と介護の両立支援だけでなく、今一度、介護保険の精神である介護の社会化のさらなる進展に向け、政府・国民が一致して取り組むことが欠かせません。

株式会社 ウエルビー代表取締役 青木正人

1955年富山県生まれ。

1978年神戸大学経営学部経営学科卒業。

大手出版社の書籍編集者を経て、出版社・予備校・学習塾を経営、その後介護福祉士養成校・特別養護老人ホームを設立・運営する。自治体公募の高齢者・障害者・保育の公設民営複合福祉施設設立のコンペティションに応募し当選。 2000年有限会社ウエルビー(2002年に株式会社に改組)を設立し、代表取締役に就任。

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