資産を使わない高齢者(2024年8月)
資産を使わない高齢者
DIE WITH ZERO になれない社会
今年の10月、東京の西麻布に、地下1階、地上36階建て、400室の豪華な有料老人ホームが開業します。
75歳で1LDKに1人で入居する場合、一時金は約1億5000万円、共益費とサービス料が月額25万円ほど、130平方メートルの部屋に2人で入居する場合の一時金は約5億4000万円、月額の支払いは54万円弱。
にもかかわらず、問い合わせは4000件を超え、既に約半数の180件超が契約済みだということです。
一方、「老後に備えてためた金融資産が、80歳を過ぎても平均で1~2割しか減っていないことが内閣府の分析で判明した」という報道がありました(2024年7月29日付日本経済新聞)。
総務省の全国家計構造調査をもとに、内閣府が独自集計した「経済財政白書」の原案によるものです。
年齢別でみた世帯あたりの金融資産額は、年齢を重ねるにつれ右肩上がりに増え、定年時の60~64歳にピークに達し、平均保有資産は1800万円強になります。
65歳以降になると、資産を取り崩す動きが出るものの、そのペースは緩やかで、85歳以上でも1500万円強と減少率は1割台半ばにとどまっています。
特に金融資産の大部分を占める預金は、年齢が高くなっても残高にほとんど変化はないということです。
白書案では「公的年金や勤労などで得られる所得の範囲でほとんどの消費活動を賄っており、老後の生活のために蓄積した資産を切り崩す程度は非常に限定的」と指摘し、「長寿化によって長生きリスクがより強く意識されている」と分析しています。
数年前には、金融庁の報告書をきっかけに「公的年金だけでは老後に2,000万円不足する」というミスリーディングを引き起こすようなメディアの報道も記憶に残っています。
「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンは脳内の濃度が高いと楽天的になり、低いと不安を感じやすく神経質になるという言説は、よく知られています。
このセロトニンを運搬するトランスポーター遺伝子には、L(long)型とS(short)型があり、その組み合わせでLL型、SL型、SS型があります。
L型はセロトニンをたくさん作る一方、S型はセロトニンの脳内リサイクルがあまりなされずに体外に排出されやすいために、慢性的な脳内セロトニン不足となりやすいことが分かっています。
セロトニントランスポーター遺伝子にL型を持つ人の割合は人種によって異なり、アフリカ人>アメリカ人>アジア人の順になります。
脳内セロトニン濃度が高く、ストレスを感じる状況でも精神的に安定しやすいLL型遺伝子を持つ人は、日本人1.7%、アメリカ人32.3%です。
S型遺伝子(不安遺伝子)の保有割合は、日本人80.25%、中国人75.2%、台湾人70.57%、スペイン人46.75%、アメリカ人44.53%、南アフリカ人27.79%となっています。
とりわけ日本人ではSS型が最も多く、全体の68.2%を占めます。
一方アメリカ人のSS型は全体の18.8%です。
不安感が強い人は、常に将来を心配して、備えておこうという傾向があります。
逆に楽天的な人は先のことを考えるよりも、今を楽しもうとする傾向があります。
こうした遺伝子的な傾向が、日本の高齢者の節約志向を高めているのでしょうか。
近年『DIE WITH ZERO ~人生が豊かになりすぎる究極のルール』(ビル・パーキンス著)という翻訳書がロングセラーを続けています。
タイトルを訳すと「ゼロで死ね」となります。
「お金を使い切って死ぬ」というのは、ある種の理想でもあることが分かります。
この本が、日本でも評判だというのは、意識が変わる前兆なのでしょうか、あるいは見果てぬ夢なのでしょうか。
私は、ゼロで死ぬ日本人がそう増えるとは思いません。
所得格差の拡大や分断が通底するわが国に必要なのは「希望」です。
若者から高齢者まで、同じ希望を持てることが必要です。
今の高齢者は、若者から見てロールモデルとなるのでしょうか。
そうなるためには何が必要なのか、世代を超えた対話のできる環境整備が求められます。
株式会社 ウエルビー代表取締役 青木正人
1955年富山県生まれ。
1978年神戸大学経営学部経営学科卒業。
大手出版社の書籍編集者を経て、出版社・予備校・学習塾を経営、その後介護福祉士養成校・特別養護老人ホームを設立・運営する。自治体公募の高齢者・障害者・保育の公設民営複合福祉施設設立のコンペティションに応募し当選。 2000年有限会社ウエルビー(2002年に株式会社に改組)を設立し、代表取締役に就任。