「技能実習」から「育成就労」へ(2023年12月号)

「技能実習」から「育成就労」へ
外国人人材は集まるか!?

先月末、政府の「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」が、技能実習に代わる新制度「育成就労」(仮称)の創設を盛り込んだ最終報告書を取りまとめました。
外国人の技能実習制度は、「人材育成による国際貢献」「途上国への技術移転」が理念でした。現在は主にアジアからおよそ35万8,000人、介護分野にはおよそ1万5,000人が就労しています。

5月に発表された「中間報告」では、「技能実習制度は廃止」「どの職種も技能実習から特定技能に移ることができるようにする」「原則不可能だった転籍を認める」など、改革の方針が示されました。
しかし、今回の最終報告書では最終盤の議論で、後退とも思える見直しが行われました。
「廃止」という表現は「発展的な解消」と変更され、新制度の名称は「育成就労」(仮称)となりました。
基本的に3年間の就労を通じた育成期間で、一定の水準に育成することをめざすとされています。

育成就労と特定技能の関係 出典:「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」資料

とりわけ議論の焦点となったのは、原則不可能だった「転籍」の扱いです。
当初案では、最初の職場に「1年」勤めれば転籍できるとされていました。それが「2年以内」延長され、その後「分野ごと当分の経過措置」として、転籍まで「1年以上」の期間も認める、となりました。
こうした議論の背景には、特に地方の企業から「転籍をめぐる議論の背景には、特に地方の企業から「1年で転職可能となれば、賃金水準の高い都市部に人材を吸い上げられる」という懸念が大きかったためです。
しかし、1年以上という文言では、上限が明示されていないため、極めて曖昧で骨抜きと批判されても仕方がありません。

多額の借金を抱えて来日する技能実習生も、少なくありません。
借金を抱えたままで、3年間転籍が認められない現状では、パワハラや暴力、残業代の不払いなどがあっても我慢するほかなく、失踪する実習生が年間9,000人を超えています。
国際協力機構(JICA)によれば、2040年に必要な外国人労働者は現在の3.7倍の674万人と試算されています。
中でも介護分野では、外国人労働者がいなければ成り立たない現場も少なくありません。

他の国々との間での人材獲得競争は、激しい競争となっています。
海外の移住労働者の統計によれば、ベトナムの移住労働先は、台湾が日本を上回り、インドネシア、フィリピン、香港、サウジアラビア、UAEなどに押されて日本は5番目となっています。
こうした現状を踏まえれば、日本が外国人実習生を集め、さらに労働力として確保していくためには、企業の努力は欠かせません。
また、政府も経済成長力低下と円安の進行による、外国人労働者にとって日本の魅力の低下を厳しく認識する必要があります。
人権保障の国際水準では先進国最下位ともいえる、状況を根本的に変えていくことが不可欠です。
転籍の制限を撤廃することは、実習生の人権擁護の基本と言えます。

日本人からも外国人からも「選ばれる国」「選ばれる企業」になれるかどうかににわが国の未来がかかっている、と言っても過言ではないでしょう。

株式会社 ウエルビー代表取締役 青木正人

1955年富山県生まれ。

1978年神戸大学経営学部経営学科卒業。

大手出版社の書籍編集者を経て、出版社・予備校・学習塾を経営、その後介護福祉士養成校・特別養護老人ホームを設立・運営する。自治体公募の高齢者・障害者・保育の公設民営複合福祉施設設立のコンペティションに応募し当選。 2000年有限会社ウエルビー(2002年に株式会社に改組)を設立し、代表取締役に就任。

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