介護事業の大規模化は何をもたらすか!?(2023年9月号)

目次

介護事業の大規模化は何をもたらすか!?
農業政策から学べること

近年、介護事業の大規模化について、さまざまな場面で言及が行われています。

「介護の経営の大規模化・協働化により人材や資源を有効に活用することが重要である」(社会保障審議会介護保険部会「介護保険制度の見直しに関する意見」2022年12月20日
「サービスの質を確保しつつ、人材や資源を有効に活用するため、介護サービスの質の向上、介護サービス事業者の経営の協働化・大規模化も有効である」(「地域における医療及び介護を総合的に確保するための基本的な方針」2023年3月17日
「ICT機器の活用による人員配置の効率化、協働化・大規模化による多様な人員配置、給付の効率化、給付範囲の見直し等の取組を着実に進める必要がある」(財政制度等審議会建議「歴史的転機における財政」2023年5月29日

こうした大規模化への大合唱を耳にするにつけ、農業の大規模化推進政策の結末を思い出さずにはいられません。
農林水産省は、大規模化のメリットを次のように説明しています。

大規模化をおこなうと、農家一定の面積あたりの作業労働時間が減少したり、生産するときの費用が下がったりします。
たとえば、田植機が1回に8本ずつ植えていくのは、4本ずつ植えていくのより、同じ面積の田植えをするときに、2分の1の時間でできます。
しかし、8本植えの機械は、4本植えの機械よりたいへん値段が高いので、小さな面積だとかえって費用が高くなります。
そこで、大規模化をおこなうと、効率的に機械が使え、費用が割安になります。
農林水産省ホームページの「こどもそうだん」

しかし、必ずしも規模が大きくなればコストが削減されるわけではないことが、これまでの研究で明らかにされています(「水田作における規模問題」秋山 満・2012年「稲作経営の規模拡大過程におけるコスト削減の阻害要因の考察」山口和穂、内山智裕・2017年 など)。

圃場面積と10a当たりの収穫量 出典:「日本の農業は規模の経済が働きにくい?」渡邊智之

経済学者の宇沢弘文は、その著書『社会的共通資本』(2000年)において、日本の農政の欠陥をおおよそ次のような内容で厳しく指摘しています。

これまでの日本の農政は、農業の経営的規模を大きくし、労働生産性を高めることによって、農業を工業部門と比較して劣らない効率的なものにすることに焦点がおかれてきた。
しかし、規模の経済の大きさや資本収穫性、利潤性のいずれも工業部門と比べてはるかに小さい農業を企業と競争させたためにため、農業の衰退を招いた。

宇沢が提唱した社会的共通資本とは、すべての人々が、豊かな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力のある社会の安定的な維持を可能にする、①自然環境(大気、森林、河川、土壌など)②社会的インフラストラクチャー(道路、交通機関、上下水道、電力・ガスなど)そして③制度資本(教育、医療、司法、金融など)のことで、これを社会共通の財産としようという考え方です。

制度資本に位置付けられる介護を、自然環境、社会的インフラストラクチャー、制度資本のいずれとも深い関係を持つ農業とのアナロジーでとらえると、宇沢の指摘は大きな意味を持っていると思われます。
規模の経済や資本収益性の小さい介護事業に、大規模化による効率性を一様に求めることは、旧農業基本法が招いた失敗と同様の結果を持たらす危険が大きいと言わざるを得ません。
介護および介護事業の多様性や関係性の深さ、そして生活を支えるという特性を踏まえた施策展開が必要です。

株式会社 ウエルビー代表取締役 青木正人

1955年富山県生まれ。

1978年神戸大学経営学部経営学科卒業。

大手出版社の書籍編集者を経て、出版社・予備校・学習塾を経営、その後介護福祉士養成校・特別養護老人ホームを設立・運営する。自治体公募の高齢者・障害者・保育の公設民営複合福祉施設設立のコンペティションに応募し当選。 2000年有限会社ウエルビー(2002年に株式会社に改組)を設立し、代表取締役に就任。

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