特定最低賃金で介護職員の処遇は改善できるか!?(2025年5月)

特定最低賃金で介護職員の処遇は改善できるか!?
小手先の対応では成果は望めず

永田町では、与野党挙げて消費税の減税コールが高まる中、介護分野では、「特定最低賃金」導入が取りざたされています。
特定最低賃金とは、特定の産業について設定されている最低賃金で、関係労使の申出に基づき最低賃金審議会の調査審議を経て、同審議会が地域別最低賃金よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認めた産業について設定されるものです。
北海道の乳製品製造業や広島県の自動車小売業など、現在全国で224件が適用されています。
介護職員への適用については、福岡資麿厚生労働大臣、石破茂首相が言及しています。

この背景には、介護労働者の低賃金があります。
図1は、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」による2008年から2024年までの「全産業平均」と「介護職員」の賃金(賞与込み給与)のについて、2008年の賃金を100とした場合の指数の推移です。
全産業平均は、2008年から2022年まで100以下の水準で推移していますが、その後降は上昇傾向に転じ2024年には117となっています。介護職員をみると、2008年から2014年まで100以下の水準で推移していましたが、2015年からは全産業平均を上回る上昇傾向が認められ、2024年には119となっています。
つまり、介護職員の賃金上昇率は、度重なる職遇改善施策により全産業平均を上回っており、処遇改善の効果はあったと言えます。

介護職員と全産業労働者の賃金推移(指数) 出典:介護給付費分科会 介護事業経営調査委員会資料を基に作成

一方、図2は同じく「賃金構造基本統計調査」による2008年から2024年までの全産業平均と介護職員の賃金実額の推移です。
2008年には全産業平均が36.1万円に対し介護職員25.5万円と賃金差は10.6万円ありました。
その後2020年には、全産業平均35.2万円、介護職員は29.3万円と賃金差が5.9万円まで縮小していましたが、2024年には全産業平均38.6万円、介護職員30.3万円と再び8.3万円と差が開いています。
賃上げが定着しつつある他産業と介護業界の賃金格差の解消は、先行きが明るいとは言えません

介護職員と全産業労働者の賃金推移 出典:介護給付費分科会 介護事業経営調査委員会資料

特定最賃の新設には、同じ分野の労働者が1/2以上労働組合に加入し、協定を結ぶことなどの要件があるため、組合加入率の低い介護事業では高いハードルがあります。
仮に適用されれば、賃金水準が上がることで他業種への流出を防ぎ、介護職への応募も増える、給与への満足度が高まることで、職員の定着が進み経営が安定する、さらには業界全体のイメージ向上にもつながるというメリットがあります。
一方デメリットとしては、人件費の増加による経営への負担、とりわけ中小規模の事業者への打撃が大きく、倒産や廃業のリスクが高まるということになります。

こうした点を勘案すれば、単に特定賃金を適用しただけでは状況は改善するとは言えません。
事業者単独の力では、改善が困難なことは当然で、政府による強力な支援策をあわせて実施することが必要となります・
テクノロジーの更なる活用を中心とした生産性向上策はもちろん、さらなる処遇改善、究極的には介護報酬のアップが欠かせないでしょう。
しかし、社会保障の基幹財源である消費税にまで手をつけようとする昨今の状況では、介護関係団体がこぞって要求している「期中改定」の実現には懐疑的にならざるを得ません。
根本的な改革が求められます。

株式会社 ウエルビー代表取締役 青木正人

1955年富山県生まれ。

1978年神戸大学経営学部経営学科卒業。

大手出版社の書籍編集者を経て、出版社・予備校・学習塾を経営、その後介護福祉士養成校・特別養護老人ホームを設立・運営する。自治体公募の高齢者・障害者・保育の公設民営複合福祉施設設立のコンペティションに応募し当選。 2000年有限会社ウエルビー(2002年に株式会社に改組)を設立し、代表取締役に就任。

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