生活インフラの強みを活かす(2024年9月)

生活インフラの強みを活かす
地域に支えられた事業価値こそ最大の資産

「倒産後に事業再生を選べない『あきらめ型』倒産が増えている」とショッキングな報道がありました(8/9付け日本経済新聞)。
2024年上半期に私的整理や民事再生手続きを経ず破産に至った割合は約90.08%と過去最高を更新するなど、物価高や人手不足で再生を断念するケースが増えているほか、再生を支援する動機づけが薄い金融機関側の事情も背景にある、と報じています。

事業存続率上位(10年累計) 出典:「事業存続型倒産」の実態調査(帝国データバンク)

一方、企業倒産が増加する中、事業再生機運は盛り上がってこず、帝国データバンクが法的整理で倒産した負債5億円以上の企業を対象に調べたところ、2023年度に主要事業を倒産時に他社へ譲渡するなどした「事業存続型の倒産」を選んだ企業は157件で倒産全体に占める割合は33.1%となり、倒産企業の3社に1社は事業が存続したことが分かっています。
事業存続率が最も高かったのは2020年度の41.8%(423 件中177件)で、コロナ禍での短期的ダメージを理由に倒産したものの、中長期的には事業価値が評価された例が多かったようです。

業種別に分析すると、過去10年間の累計で最多となったのは「サービス業」の462件。次いで「製造業」348件、「卸売業」256件と続きます。
一方で、少ない業種は「運輸・通信業」70 件、「不動産業」72 件、「建設業」86 件などです。
事業存続率で見ると「サービス業」が44.4%(1041件中462件)と高く、「小売業」38.2%(511件中195件)や「製造業」37.3%(934件中348件)という順となります。

業種の細分類でみると、過去10年間の累計で件数が最も多かったのは「旅館」の150 件。2番目の「ゴルフ場」67件や、続く「貸事務所業」37件と比べても突出していまする。
事業存続率では、「ゴルフ場」が最も高く、76.1%(88件中67件)ですが、次いで「老人福祉事業」71.8%(39件中28件)という結果になっています。また第4位には、「一般病院」67.7%(31件中21件)がランクされました。

「老人福祉・介護事業」の2024年上半期(1-6月)の倒産状況は、81件(前年同期比50.0%増)で、介護保険法が施行された2000年以降、最多件数を更新しています(東京商工リサーチ調べ)。
業種別では、「訪問介護」が40件(同42.8%増)、デイサービスなど「通所・短期入所」25件(同38.8%増)、「有料老人ホーム」9件(同125.0%増)で、主要3業種そろって上半期での最多を更新しています。

介護事業者の倒産の原因をみると、最多が販売不振(売上不振)の64件(前年同期比88.2%増、前年同期34件)。次いで、赤字累積の「既往のシワ寄せ」5件(同66.6%増、同3件)。「過小資本」(同40.0%減、同5件)と「放漫経営」(前年同期同数)が各3件と続いています。

事業存続率上位(10年累計) 出典:「事業存続型倒産」の実態調査(帝国データバンク)

事業存続率について帝国データバンクは「上位の業種は、いずれも代替のきかない(資産価値の高い)施設・設備やブランドを有しており、法的整理によって金融債務等の負担が軽減されれば相応の事業価値が認められ、事業が存続しやすい」と分析しています。

地域に密着した事業である介護業界では、地域社会との強い結びつきがあり、倒産しても地域のニーズに応じて再度事業を立ち上げるケースが見られます。
倒産した場合でも従業員の再雇用が行われ、新たな事業者がそのまま施設や設備そのまま引き継ぐケースが多くあります。
介護事業は生活インフラの一つで、消滅すると地域の生活を大きく損ないかねません。
倒産報道のマイナス面だけを強調するより、地域に支えられて存続する事業のバリューを大切にしたいものです。

株式会社 ウエルビー代表取締役 青木正人

1955年富山県生まれ。

1978年神戸大学経営学部経営学科卒業。

大手出版社の書籍編集者を経て、出版社・予備校・学習塾を経営、その後介護福祉士養成校・特別養護老人ホームを設立・運営する。自治体公募の高齢者・障害者・保育の公設民営複合福祉施設設立のコンペティションに応募し当選。 2000年有限会社ウエルビー(2002年に株式会社に改組)を設立し、代表取締役に就任。

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