働く意欲をそぐ在職老齢年金制度は見直しを(2024年10月)

働く意欲をそぐ在職老齢年金制度は見直しを
人生100年時代の年金制度を構築

米国の求人サイト「インディード」のページに投稿された、職業人生の段階を示す図が大きな波紋を呼んだという記事を目にしました(9月30日付日本経済新聞朝刊)。
21~25歳は「模索期」、45~55歳は「キャリア後期」、そして55~65歳になるとなんと「衰退期」に突入するというものです。
SNSで非難の書き込みが相次いだため、インディードは慌てて問題の図を引っ込め、公開したことや作成したこと自体が間違いだったと認めたそうです。

リクルートワークス研究所が、2040年に生活維持サービスに必要な担い手がどれだけ不足するかを都道府県別にシミュレーションすると、31道府県で充足率が75%以下になるという衝撃的な結果が示されました。
今後の労働需給シミュレーション全体の動きは、労働需要がほぼ横ばいないし微増なのに対し、労働供給は大きく減少し、労働供給の不足は2030年に341万人余、2040年に1100万人余となっていくとしています。

労働需給のシミュレーション     出典:「未来予測2040」リクルートワークス研究所

このような時代背景を考えれば、労働意欲の旺盛な高齢者には65歳を超えても働き続けることができる環境整備が欠かせません。
そうした観点から求められているのが「在職老齢年金制度」の見直しです。
これは保険料率を下げるための財源措置として、「65歳以上の働く高齢者で賃金と厚生年金の合計額が月50万円を超えた場合、超えた分の半額を厚生年金額からカットする」という仕組みです。

在職老齢年金の仕組み  出典:日本経済新聞2024年4月13日付朝刊

政府試算では制度を撤廃すると、支給額は2040年度で6400億円増加します。
しかし高齢者の就労増で経済全体が底上げされれば、保険料収入が増えることによる効果も見込めます。
年金に加入して働く人がより高い賃金で働けば、医療・介護保険料の収入も増え社会保障制度全体にもプラスになります。
財源が不足するなら、厚生年金保険料の上限を引き上げてはどうでしょうか。

厚生年金を受け取る年齢になったときの働き方を尋ねた調査(内閣府「生活設計と年金に関する世論調査」2023年11月)によれば、65~69歳では約3割が「年金額が減らないように、就業時間を調整しながら会社などで働く」と回答しており、在職老齢年金制度が就業を抑制している可能性が少なくありません。

先ごろ閣議決定された「高齢社会対策大綱」では、「働き方に中立的な年金制度の構築を目指して、更なる被用者保険の適用拡大等に向けた検討を着実に進める」と、在職老齢年金制度の見直しにより社会保障制度の持続性を高めることを促しています。

来年予定の法改正では在職老齢年金の見直しも検討課題です。
60代後半の就業率が5割強にも上昇している現在、ぜひ新内閣には「働き損」のない合理的な制度設計に向け、縮小・廃止をめざしてもらいたいと思います。

株式会社 ウエルビー代表取締役 青木正人

1955年富山県生まれ。

1978年神戸大学経営学部経営学科卒業。

大手出版社の書籍編集者を経て、出版社・予備校・学習塾を経営、その後介護福祉士養成校・特別養護老人ホームを設立・運営する。自治体公募の高齢者・障害者・保育の公設民営複合福祉施設設立のコンペティションに応募し当選。 2000年有限会社ウエルビー(2002年に株式会社に改組)を設立し、代表取締役に就任。

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