DEIは逆差別なのか!?(2025年3月)
DEIは逆差別なのか!?
誤った「平等」観がもたらす民主主義の危機
米国でトランプ大統領が就任して以来、次々と驚くような政策転換や決定が相次いでいます。
DEI(diversity,equity & inclusion)についても、大きな揺らぎが見られます。
DEIとは、多様性、公平性、包括性の頭文字をとったもので、多様性や公平性を尊重し、誰もが受け入れられる包括的な組織や社会を実現しようとする取り組みを指します。
グローバル化を背景に、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)に代表される大企業の人事や雇用、社内制度などに強い影響を与えています。
これに噛みついたのが「性別は男性と女性の2つのみ」と宣言したトランプ大統領です。
政府のDEIプログラムを廃止し、SNSでは「DEIは米国に悪影響を及ぼしてきたデマだ。アップルはDEIルールを廃止すべきだ」と投稿しています。
こうした反DEIの主張は、トランプ氏だけに限ったものではありません。
米国の保守派活動家ロビー・スターバック氏は「DEIは人種差別だと考える。『公平(equity)』と『平等(equality)』は異なる。DEIが掲げている公平とは、世界が掲げてきた価値観である平等とは違い、他の誰かがあるレベルにいるのに私がこのレベルにいるのは不公平だと主張し、私のレベルを人為的に引き上げ同じにするものだ」と、「DEIは逆差別」だと主張しています(2月25日付「日本経済新聞」)。
平等と公平の違いを説明するのに、下記のようなイラストをご覧になった方も少なくないでしょう。
左側の“equality”では、全員に同じ高さの台が準備されており、与えられる条件はみな同じで「平等」です。しかし、これでは一番右の子どもは野球を見ることができません。一方、右側の“equity”では、それぞれの背の高さ(状況)に合わせた台が準備されていて、全員が野球を見ることができます。つまり、個々の特性や状況を考慮し、誰にでも「公平」な機会を提供するのが“equity”だと考えられます。

アメリカ独立宣言には、次のような有名なセンテンスがあります。
We hold these truths to be self-evident, that all men are created equal, that they are endowed by their Creator with certain unalienable Rights, that among these are Life, Liberty and the pursuit of Happiness.
(我らは以下の諸事実を自明なものと見なす。すべての人間は平等につくられている。創造主によって、生存、自由そして幸福の追求を含むある侵すべからざる権利を与えられている)
1776年の建国当時、この宣言はアメリカン・デモクラシーの理念を示す大きな意義を有するものでした。
その歴史的価値は、今も変わりません。
しかし、だからと言って、あらゆる場面において「平等」がすべてに勝る価値観であると断言できるわけではありません。
また、DEIは、過去の人権侵害や不平等を是正しようという目的を持って推進されてきました。
反DEIの立場を強調することは、これらの取組みを後退させ、社会全体での平等や公正の価値を軽視する風潮を助長するものでしかないでしょう。
株式会社 ウエルビー代表取締役 青木正人
1955年富山県生まれ。
1978年神戸大学経営学部経営学科卒業。
大手出版社の書籍編集者を経て、出版社・予備校・学習塾を経営、その後介護福祉士養成校・特別養護老人ホームを設立・運営する。自治体公募の高齢者・障害者・保育の公設民営複合福祉施設設立のコンペティションに応募し当選。 2000年有限会社ウエルビー(2002年に株式会社に改組)を設立し、代表取締役に就任。

