市民参加による新しい合意形成を(2024年11月)
市民参加による新しい合意形成を
専門家任せではなく当事者がプレイヤーに
昨年末、「中央社会保険医療協議会(中医協)について考えよう~なぜ患者・市民の参画が必要なのか』という勉強会が開催されました(患者目線で革新的医療政策実現を目指すパートナーシップ:PPCIP主催)。
中医協で各立場の委員が何を目指して議論をしているのか、患者・市民代表が委員として参加した場合にはどのような議論に変わっていくのかを知るために、模擬中医協やパネルディスカッションが実施されました。
実際に中医協でもテーマになった「医療DXの推進」について、患者団体から3人が参加し議論が行われました。
中医協の委員は20人で、診療側(日本医師会や病院団体の代表)と、支払側(保険料を支払う健康保険組合などの代表)の委員が7人ずつ、公益代表(公益を代表する委員)が6人として法律で決められています。
介護報酬を審議する介護給付費分科会では、老人クラブ連合会や認知症の人と家族の会などの代表が委員を務めていますが、診療報酬を審議する中医協では、患者代表を委員とする規定がありません。
辻邦夫 日本難病・疾病団体協議会常務理事は「中医協は医療の消費者である患者を見ていない。当事者が委員として出るのは当たり前だ」と訴えました。
マサチューセッツ工科大学(MIT)のオットー・シャーマーの著書『U理論』には、以下のようなエピソードが紹介されています。
ドイツのフランクフルト近郊にある人口30万人ほどの農村地域で、医師たちのネットワークによって、患者・医師間のダイアログ(対話)・フオーラムが開催された。
当初、患者と医師たちは、うわべだけの議論や言い合いを行っていたが、「あなたがたのことがとても心配です。私たちのシステムが あなたや私たちの最高のお医者様を殺してしまうなんていやです。何かお役に立てることはないのでしょうか」という女性の問いが医師と患者の会話パターンを一変させた。
当事者の心からの叫びが、利害対立だけの目立つ議論を真の対話へと変貌させたのです。
基調講演を行った元中医協会長である森田朗 東京大学名誉教授は、中医協の現状を次のように述べました。
○議論は配分のあり方にあるが、実情は、診療側の「パイの分捕り合い」
○診療報酬の細分化・複雑化によって、決定のコストと複雑性による不合理が生まれる
○データではなく政治力による決定が資源配分の非効率をもたらす
こうした欠陥を是正するには、いわゆる専門家による一方的な主張や要求の応酬を乗り越えて、当事者(市民)はじめ多様なステークホルダーが参加する―討議デモクラシーや熟議とも称される―対話に基づいた新しい合意形成のモデルを創り上げることが必要となります。
まず私たちが一歩前に進まなければ、事態は変えられません。
株式会社 ウエルビー代表取締役 青木正人
1955年富山県生まれ。
1978年神戸大学経営学部経営学科卒業。
大手出版社の書籍編集者を経て、出版社・予備校・学習塾を経営、その後介護福祉士養成校・特別養護老人ホームを設立・運営する。自治体公募の高齢者・障害者・保育の公設民営複合福祉施設設立のコンペティションに応募し当選。 2000年有限会社ウエルビー(2002年に株式会社に改組)を設立し、代表取締役に就任。