介護事業に「Fair Pay」を(2026年1月)
介護事業に「Fair Pay」(公正な賃金)を
注目すべき英国の動向
謹んで新春のお慶びを申し上げます。
新しい年が、皆様にとって希望に満ちた一年となりますよう、心よりお祈り申し上げます。
2026年の幕開けです。
私たちを取り巻く社会環境は、依然として急速な変化の中にあります。中でも、高齢化の進展とそれに伴う介護ニーズの増大は、待ったなしの課題として私たちの目の前に横たわっています。
昨年末に厚生労働省から発表されたデータによると、介護職員数は2022年をピークに減少傾向に転じ、その後も横ばいの状態が続いています。一方で、要介護・要支援認定者数は増加の一途を辿っており、現場の人手不足感は年々深刻さを増しています。2040年に向けて、本来ならば年間数万人単位での増員が必要とされる中、現実は厳しい状況に直面していると言わざるを得ません。
「人が集まらない」「定着しない」。その背景には、全産業平均と比較して依然として低い賃金水準や、重労働というイメージが根強く残っていることがあります。これまでも処遇改善加算をはじめとする様々な施策が講じられてきましたが、他産業も賃上げを進める中で、その差を埋める決定打にはなりきれていないのが実情です。

そのような中、海を越えた英国から、未来へのヒントとなる興味深いニュースが届きました。
英国政府は昨年の秋、介護業における「公正賃金協定(Fair Pay Agreement)」制度の導入に向けたパブリックコンサルテーション(意見公募)を開始しました。
この「公正賃金協定」とは、個々の事業所単位ではなく、介護業界全体として賃金の最低基準や労働条件、さらには研修やキャリアパスのあり方を設定しようという画期的な試みです。
政府主導で労使が話し合う場を設け、単なる「最低賃金」以上の、介護という専門職にふさわしい「公正な賃金」を定めようとしています。
特筆すべきは、これが単なる賃上げの議論にとどまらず、介護職を「専門的なスキルを要する、社会にとって不可欠なキャリア」として再定義しようとしている点です。
適切な報酬、十分なトレーニング、そして明確なキャリア展望。これらをセットにすることで、介護職の社会的地位を根本から向上させようという、国を挙げた強い意志が感じられます。
日本においても、この「公正さ」という視点は、これからの介護を考える上で大きな鍵になるのではないでしょうか。
もちろん、国情や制度の違いはあります。
しかし、「エッセンシャルワーカーである介護職員が、その専門性と貢献に見合った公正な対価を得られる社会」を目指すという方向性は、私たちも共有すべき「夢」であり、目標であるはずです。
もし日本でも、介護職が「誰もが憧れる、報われる職業」としての地位を確立できたなら、どうなるでしょうか。
若者たちが「自分もあのようなプロフェッショナルになりたい」と目を輝かせてこの業界に飛び込んでくる。
経験を積んだ職員が、誇りを持って長く働き続けられる。
そして、十分な人員配置の中で、利用者一人ひとりに寄り添った温かいケアが提供される――。
そんな「夢」のような光景は、決して不可能な未来ではありません。
英国の動きは、制度設計や財源確保といったハードルを乗り越えれば、ケアの質と働き手の幸せは両立できるという可能性を示唆してくれています。
2026年は、介護報酬の臨時改定なども視野に入る重要な年です。目先の数字合わせだけではない、働く人々の「誇り」と「安心」を支える抜本的な議論が深まることを期待してやみません。
「Fair Pay」がもたらす「Fair Care」。公正な賃金が、公正で温かなケアを生み出し、ひいては高齢社会全体の豊かさにつながっていく。そんな好循環が回り始める「元年」となることを願って、新年の筆を置きたいと思います。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
株式会社 ウエルビー代表取締役 青木正人
1955年富山県生まれ。
1978年神戸大学経営学部経営学科卒業。
大手出版社の書籍編集者を経て、出版社・予備校・学習塾を経営、その後介護福祉士養成校・特別養護老人ホームを設立・運営する。自治体公募の高齢者・障害者・保育の公設民営複合福祉施設設立のコンペティションに応募し当選。 2000年有限会社ウエルビー(2002年に株式会社に改組)を設立し、代表取締役に就任。


