2022年6月号

「日銀子会社」発言を笑えないわけ
未来に続く社会保障こそ希望

政府が昨日(5/31)公表した2022年度の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太方針)の原案に、これまで2025年度を「堅持」とすると明記されてきた地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス:PB)黒字化の目標年限が消えてしまいました。
自民党では、財政出動に積極的な議員で構成する「財政政策検討本部」と財政規律を重んじる「財政健全化推進本部」の対立が先鋭化していました。
党総裁である岸田文雄首相はもともと財政規律を重視する考えですが、参議院議員選挙を控え、党の結束を優先した結果とも受け取れます。
こうした「財政再建派」と「積極財政派」(リフレ派・MMT派)の意見の隔たりは今に始まった話ではありませんが、結論の出ない二項対立はもうお終いにする時期だと思っています。
しかし、元首相の「日銀は政府の子会社」発言だけはいただけません。
井手英策・慶應義塾大学経済学部教授は、「議会が財政のコントロール失えばインフレで経済は破綻し、税と給付を切り離す危うさは、民主主義の自殺につながる」と述べています。
財政が破綻しないのであれば、すべての国民に10万円の現金を配ることができます。
この施策がうまくいき、財政は大丈夫だ、物価上昇も幸いにして目立たない、という理想的な状況が生まれたとします。
すると、次は1人に20万円、その次は50万円と、財政を通じて現金が配られ続け、歯止めが利かなくなります。
こうなると財政は破綻しなくとも、いずれは経済がインフレという形で破綻することは確実です。
絵空事ではなく、まさにファシズム期の日本やドイツがこうした経験をしています。

【介護保険の財源構成】

これと同じような理屈を社会保障の負担と給付の議論においても、しばしば耳にします。「介護保険における公費負担の割合を増やし、保険料や自己負担の上昇を抑えるべき」という主張です。
これは介護保険制度は、高齢者の数が増えると保険料も上がるという仕組みが取り入れられているからこそ、現在まで破綻を起こしていないという事実を認識していない暴論と言って間違いはありません。
そうした浅慮こそが、「医療・介護保険制度へ のサーキットブレーカーの導入」という全く逆の主張に道を開くことになりかねないのです。

目先の利益に走らず、苦しい時期に苦い薬を飲むことも厭わない決意こそが、ポピュリズムを排し、次の世代に希望を抱かせる唯一の道ではないでしょうか。

                                  株式会社ウエルビー
                                  代表取締役 青木正人

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