2022年9月号

格差拡大は資本主義の宿命!?
稲盛哲学が称えられ続けることの意味

駆け出しの編集者だった40数年前、創業社長の生の声を集めた大型書籍の担当を任されました。
錚々たる経営者の肉声に接するというたいへん贅沢な環境にあったのですが、当時は、
正直ピンと来ていませんでした。
有名な松下幸之助の「ダム式経営」の逸話も、「俺も『思わなあきまへん』と返されたら、苦笑いするだろうな」と思っていました。
SBGの損益と法人税の課税状況】出典:日本経済新聞(2022年8月20日朝刊)
連結純利益が日本企業で史上最高の約5兆円となった2021年3月期でさえ、法人税はゼロでした。
課税が少ないのは、収益の大半が税法上は非課税となる傘下企業などからの配当だからとみられます。
税法上、一定の条件を満たす国内子会社からの配当金は全額が、海外子会社からの配当金は95%がそれぞれ非課税となるためです。
「SBGは投資会社のため、法人税額が少ないのは自然だ」と肯定する専門家も少なくありませんが、「適法でも兆円単位の利益のある会社が、何年も法人税額がゼロなのは違和感がある」と指摘する向きもあります。

先月のコラムでも言及したトマ・ピケティ(Thomas Piketty)は『21世紀の資本』で、「r(資本収益率)>g (経済成長率)」が前提となると、資本主義が発展すると一時的に格差が広がるが、やがて縮小するというこれまでの経済学の定説を覆し、富裕層はより大きな利益を得るため格差は広がり続けると主張しています。
こうした不平等や格差の解消のためには、国際協調の下に、ストックとしての資本に対して累進的な課税を行うというアイデアを示しました

【格差縮小のため優先的に取り組むべき対策】出典:読売新聞世論調査(2022年3月27日)

今春、読売新聞社が実施した全国世論調査においても、日本の経済格差について、全体として「深刻だ」と答えた人は「ある程度」を含めて88%に上っています。

「格差縮小のため政府が優先的に取り組むべき対策」(3つまで)をたずねると、「賃金の底上げ」に次いで「大企業や富裕層への課税強化など税制の見直し」が50%となっています。
 

一方、国際競争力を高め、経済成長を遂げるためには法人税減税が欠かせないとする主張も目立ちます。

かつて日本の法人税の実効税率は40%を超えていましたが、段階的に減税が行われ、現在は23.2%まで下がっています。
にもかかわらず、減税によって得られたキャッシュを設備投資に回さず、多くを内部留保に回している大企業が多いのが事実です。

先日亡くなった稲盛和夫さんは、「『人間として何が正しいか』を判断基準として、誰に対しても恥じることのない公明正大な経営、業務運営を行っていく」とする経営哲学を終生貫き続けた経営者です。
アメーバ経営の信奉者は、
医療機関や介護事業者にも少なくありません
こうした問いに真正面から向き合う経営者のチャレンジこそが、公正で平等な社会の発展をもたらす原動力となるに違いありません。
松下幸之助の「ダム式経営」の質疑を聞いて、「体に電流が走るような衝撃」を受けたという稲盛さんの気持ちも、今ならほんの少し分かるようになりました。

                                  株式会社ウエルビー
                                  代表取締役 青木正人

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