2006年10月号

ウエルビーコラム 2006年10月号

社会福祉法人の解散・M&Aが常態化する !?
大変革を強いられる社会福祉法人と福祉・介護事業者

小泉内閣から安倍内閣へと政権が変わりましたが 改革・競争路線は引き続き継続するという新首相の方針のようです。福祉の世界でも 聖域視されていた社会福祉法人に大きなメスが入ろうとしてしています。

さきごろ 厚生労働省社会・援護局と全国社会福祉施設経営者が合同で設置した「社会福祉法人経営研究会」は 『社会福祉法人経営の現状と課題-新たな時代における福祉経営の確立に向けての基礎作業-』と題する報告書を取りまとめました。 同報告書の眼目は 福祉経営環境の変化に対応するために 社会福祉経営は 従来の「施設管理」から「法人単位の経営」へと転換するよう提言した点にあります。

社会福祉法人の従来の経営モデルを ①施設管理中心で法人経営が不在 ②事業規模零細 ③再生産・拡大生産費用は補助金と寄附が前提 ④画一的サービス ⑤同族的経営 であると指摘しています。

社会福祉法人は 土地と施設整備の自己負担を寄付で賄う仕組みだったため 寄付者によるオー ナー企業的な法人が多く しかも地方自治体において「一法人一施設」の指導が行われてきたこともあり 零細な規模の法人が多数を占めています。その結果 法人数は増加の一途をたどり90年以降だけで見ても約1.4倍となっています。加えて 全国一律の基準に沿った施設・設備整備と職員配置が前提であったことが 画一的なサービスを産み出す要因であると分析しています。

その一方で 90年代以降は「福祉分野の給付総額の急速な拡大」「介護保険制度の確立」「民間企業の参入」「医療と福祉のサービスの競合」 といった状況変化の中で 経営環境は厳さを増してており 新たな福祉経営の確立は急を要する課題であると明示しています。そのためには 社会福祉法人経営を「自立・自律」と「責任」が伴う「法人単位の経営」が不可欠だと断言しています。

この「法人単位の経営」の実現のための主要なポイントとして ①規模の拡大と新たな参入と退出ルール ②長期資金の調達 ③ガバナンスの確立と経営能力の向上 ④人材育成と確保 をあげています。

今後の行政のあり方については 国には法令・基準の見直しや全国的な福祉に関するデータの収集・整理・提供などを行うこと 都道府県には一法人一施設を前提 とした認可のあり方を見直 し ケアの質や経営能力を 反映したものに見直すこと 不必要で些細な監査は行 わないこと 市町村には地域ニーズを把握・分析し 住民の参画を得て地域ケアの確立を目指していくべきであると求めています。

このような提言の前提には 社会福祉経営の問題の多く 例えば「低賃金」「高離職率」といった課題は 社会福祉という業種の特殊性にあるのではなく 組織の規模にある(他産業の中小・零細企業のかかえる課題と同じ)という視点があります。

今まさに 根本的な変革が始まろうとしています。

資金の使途や収益事業にかかわる規制の廃止や法人本部の運営機能の強化など 規制緩和は大幅に進展するものと思われます。反面 これまでの つぶれることなどないという常識は通用せず解散や清算が行われことになります。また M&Aの法制化が進み 合併や事業譲渡が当然のごとく行われるようになります。

この稿では この改革路線の是非を問うことはしませんが 老健局長時代に介護保険制度改革を成し遂げ 社会・援護局長に転じて障害者自立支援法を成立させた 中村秀一氏が推進役となっていることに注目せざるを得ません。

このドラスティックな改革は 単に社会福祉法人にとどまるものではなく すべての福祉・介護の事業者に計り知れない影響を与えることになるということを 経営者は肝に銘じておくべきでしょう。

この記事が気に入ったら
いいねしてね!

  • URLをコピーしました!
目次