厚生年金受給者が割を食う!?(2024年12月)

厚生年金受給者が割を食う!?
共助が支える社会保障

10月のコラムで取り上げた、65歳以上の人が一定の収入を得ると年金が減額される「在職老齢年金」制度が、見直される方向となりました。
減額となる基準額を現在の50万円から62万円、71万円に引き上げるか、あるいは制度そのものを廃止するか、という見直しの方向性が示されました。
高齢者が自由に、働き損なく働ける環境整備が進むことを期待したいと思います。

国民年金の財政状況悪化に伴う基礎年金の将来的な給付水準の低下への対応も、年金制度見直しの大きな課題です。
11/25の社会保障審議会年金部会では、以下のような案が提示されました。
支え手となる現役世代の負担が重くなりすぎないよう、年金の給付水準を物価や賃金の上昇率よりも低く抑えているマクロ経済スライド」について、基礎年金では一定の経済状況を前提に、2057年度までと見込まれる継続期間を、2036年度までに短縮するというものです。
抑制措置が長期化すれば、給付はその分減り続けることになり、厚生労働省の試算では、過去30年間と同じ程度の経済状況が続いた場合、2057年度の基礎年金の給付水準は現在より3割低下するとしています。

基礎年金の給付水準の低下 出典:NHK

これに伴い給付を増やすのに必要になる財源は、会社勤めの高齢者や女性の増加などで比較的財政が安定している厚生年金保険料の積立金からの拠出や、追加の国庫負担で賄うとしています。
厚生労働省の今回の案では、追加で生じる国庫負担は年間1兆円から2兆円程度と見込まれ、今後はこれをどう確保していくかが大きな課題の一つとなります。

こうした方向性について、
「国民年金の支給額を3割アップするための税源が『厚生年金の積立金』というのは、違和感しかない」
「厚生年金で払った保険料が、国民年金に横流しされているようなイメージがある」
「厚生年金が積立方式であれば国民年金に流用とかできないでしょう」
など、SNSを中心に不満の声が高まっています。

一見して正論のようにも思えますが、少なからぬ誤解が含まれています。
この見直しで厚生年金の上乗せ部分は減りますが、厚生年金の人も2階建ての年金構造の1階部分にあたる基礎年金を受け取るため、厚生年金受給者の99.9%は受給額全体が増えるのです。
子ども・子育て支援金の創設時に、医療保険料からの流用ではないかという誤解や子育てしていない人からの不満が聞かれたのとよく似た状況です。

給付水準3割底上げの効果 出典:テレビ朝日

そうした不満の背景には「年金に対する不安や不満」があると思われます。
ひとつは、人間には「現在バイアス」と呼ばれる、将来の大きな利益より目の前の小さな利益を優先しがちになる、という心理傾向が見られることがあります。
さらい大きいのは、年金を含む社会保険は社会連帯の仕組みであるという理解の不足です。
社会保険には、公費=税金が投入ており、もともとすべての国民が支える仕組みなのです。
社会保障によるセーフティネットの整備や社会生活の安定は、個人の努力では及びません。
国民が連帯した「共助」によってしか実現できないのです。
「私は会社員だから国民年金受給者のことは関係ない」という姿勢を多数の市民が取ることになれば、連帯ではなく「分断」が生じ、すべての世代や階層の人に不幸をもたらします。

われわれ人間の持つ支え合いという特長こそが、明るい将来に導いてくれるカギとなります。

株式会社 ウエルビー代表取締役 青木正人

1955年富山県生まれ。

1978年神戸大学経営学部経営学科卒業。

大手出版社の書籍編集者を経て、出版社・予備校・学習塾を経営、その後介護福祉士養成校・特別養護老人ホームを設立・運営する。自治体公募の高齢者・障害者・保育の公設民営複合福祉施設設立のコンペティションに応募し当選。 2000年有限会社ウエルビー(2002年に株式会社に改組)を設立し、代表取締役に就任。

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