熟議のめざすものは!?(2025年1月)

熟議のめざすものは!?
利害調整ではなく公共的価値観の創生

あけましておめでとうございます
本年が、みなさまにとって素晴らしい一年でありますようお祈りいたします。

先の衆議院議員選挙の結果、与党の過半数割れによって「一強多弱」といわれた政治状況は一変しました。
補正予算案の成立に見るように、少数与党では野党の賛同を得ない限り予算案や法案が通らないため、双方が合意に至るプロセスの重要性が際立ってきました。

石破茂総理大臣は「数で押し切ることはできない。困難なことであればあるほど誠心誠意説明し、野党に答えることが大事だ。それが『熟議の国会』だと思っている」と述べています。
立憲民主党の野田佳彦代表も「『熟議と公開』の国会運営を心掛ける」と決意を示しています。

そうした姿勢は、国民にとって歓迎すべきことなのでしょうが、「熟議」の意義がどう捉えられているのか疑問が残るのも事実です。
11月のコラム「市民参加による新しい合意形成を」で述べたように、熟議とは「専門家による一方的な主張や要求の応酬から、当事者(市民)はじめ多様なステークホルダーが参加する対話に基づいた新しい合意形成のモデル」を指します。

しかし、2024年度補正予算案の審議過程を見ると、「年収103万円の壁」問題を最優先事項に掲げた国民民主党を与党の事前協議に加えたり、日本維新の会の主張する「高校授業料の無償化」の検討を約束するなど、国会外での「駆け引き」が目立ちます。
こうした一部少数野党を抱き込んだ動きは、熟議の本旨からは大きくかけ離れたものと言わざるを得ません。

熟議とは 出典:文部科学省

松浦正浩・明治大学専門職大学院ガバナンス研究科教授は、「交渉」が各当事者の価値観や利害関心は不変であることを前提に、それぞれの利害関心を満足させる最適解を模索する点で利害調整に主眼を置くものであるのに対して、「熟議」は、利害関係に縛られない自由な対話を通じて、公共的な価値観を創生していくことを重視する、という違いがあると述べています。

VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)の時代に生きる私たちは、たった一つの最適解を一直線に求めるのではなく、迂遠に見えるかもしれませんが、全てのステークホルダーがお互いの立場に立って対話を積み重ねていくことが必要なのだと思います。

株式会社 ウエルビー代表取締役 青木正人

1955年富山県生まれ。

1978年神戸大学経営学部経営学科卒業。

大手出版社の書籍編集者を経て、出版社・予備校・学習塾を経営、その後介護福祉士養成校・特別養護老人ホームを設立・運営する。自治体公募の高齢者・障害者・保育の公設民営複合福祉施設設立のコンペティションに応募し当選。 2000年有限会社ウエルビー(2002年に株式会社に改組)を設立し、代表取締役に就任。

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