2019年10月号
三つの過剰を乗り越えるために
人の主観と関係性を大切にする社会へ
日本経済新聞の人気コラム「私の履歴書」、先月は野中郁次郎・一橋大学名誉教授でした。 楽しみにご覧になった方も多かったのではないでしょうか。
8月号の『Wedge』で、「『三つの過剰』に陥った平成の日本企業」というタイトルで、低迷する日本企業の「失敗の本質」を取り上げています。
三つとは、「オーバープランニング」「オーバーアナリシス」「オーバーコンプライアンス」を指しています。
日本企業は、経営において「計画」「分析」「法令順守」を忠実に行いすぎたのではないかと、喝破しています。
野中流に言えば、これまで低迷した最大の要因は、言葉や数字で表す「形式知」を基礎とした米国発の科学的アプローチに偏りすぎで、組織的に新たな付加価値を創出する「知識創造力」を失ったことにあるというのです。
翻って、今医療や介護の政策決定において最も重要視されているのが、PDCAサイクルであり、EBPM(エビデンスに基づく政策立案) です。
厚生労働省の一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会や介護保険部会においては、介護予防をス審するために、自治体は「PDCAサイクルに沿った方策」を推進し、その成果は「保険者機能強化推進交付金」いわゆるインセンティブ交付金として還元されるという流れが強化されようとしています。
通いの場の拡充という例を一つとってみても、参加率上げることは重要な要素ではあっても、それが目的化してしまうことは避けなければなりません。
野中氏の言う過剰がここにも見られるようです。
予防や自立支援の行先は、要介護度や認定率といった指標はひとつの参考であっても、目的ではありません。
人が生きていく先に行きつく、幸福や満足という概念を置き去りしていくことはできません。
氏は、講演で「知を『誰がつくるのか』。それは「我々」であって、知識は自分の思いや信念を真理に向かって社会的に、すなわち人々と説得し合いながら、人と人との関係性をマネージしながら、実現し正当化していくそのダイナミックプロセスである」と語っています。
科学という名目の前に切り捨てられがちな私たちの「主観」と「関係性」が、この社会を前に進めていく原動力になるということです。
個々の市民・国民の「幸せ」が見えてこない施策は、もう必要ありません。 私たちの生活という文脈の中からしか、次の展望は見つからないでしょう。 。
株式会社ウエルビー
代表取締役 青木正人