2004年9月号

ウエルビーコラム 2004年9月号

「新・介護予防」施策への疑問と課題
要介護度は真のQOLの指標か

「介護保険制度見直しに関する報告書」(厚生労働省社会保障審議会介護保険部会)においては 制度の課題として 要介護度悪化という実態をことさら強調しています。では本当に 要介護度が改善した要介護者は すべてそれ以前より「自立」した生活を手に入れたのでしょうか。

要介護認定は 高齢者の身体状態や身体機能をベースとして行われるものです。しかし 「要介護度」 とは 介護給付の受給要件や区分ごとの給付水準(支給限度額)を設定することを目的とするもの 介護保険給付水準決定のための 「介護の手間(量=時間)」 を示す「ものさし」として導入・運用されてきたものであることを忘れてはいけません。要介護度は 高齢者の身体機能・生活機能のレベル(状態像)を直接的に示す指標ではないのです。

またさらに 二次判定といういわば「手作業的」な過程を設けたこともあわせて考えれば 要介護度の区分を高齢者の身体状態や身体機能(状態像)を測る直接的な指標として用いることは妥当ではない といえます。

つまり「要介護度」を改善させることや悪化を防止することは 介護給付を抑制させることにはなっても 要介護高齢者のQOLの向上には直接つながることにはならないのです(このことを実証するには 「特養入所者の要介護度改善等に関する検証調査」(全国社会福祉施設協議会)が参考になります)。

ここからいえるのは 「要介護高齢者の経時変化は 要介護度のみによっては把握できない」 ということです。確かに要介護度は 簡便でわかりやすい指標ですが その本質は 「介護給付決定のための尺度」 でしかないのです。 したがって 要介護度の変化のみを理論的根拠出発点とする議論や施策の導入は 非科学的だといえます。

またたとえ 要介護度や認定基準時間が改善・短縮しなくても 「家事代行型の訪問介護や通所介護・福祉用具貸与等の介護保険サービスによって支えられる『生活』が現に存在している」 ことが 紛れもない事実であるということも見逃すことはできません。 つまり 要介護高齢者の状態像の把握には 客観的数値による把握が必要ではあるが 1つの指標に頼りきるのは一面的であり 要介護高齢者の 「生活の質」(QOL)の変化を把握することはできない ということなのです。

要介護高齢者の状態像を把握する指標を考える重要なポイントは「人が生きること」のプラス面を中心に見ようとするICFの 「『生活機能』は『心身機能・構造』―『活動』―『参加』(『生命』―『生活』―『人生』)を包括したものである」 という観点から生まれるのではないかと考えられる。この考え方は 新・予防給付とともに 今回の介護保険制度見直しの基調になっているものでもある。 であれば 国は 「新・介護予防ありき」 という政策を打ち出す前に まず要介護高齢者の経時変化を多面的に把握する総合指標の研究・策定に注力すべきでしょう。

また 介護サービス事業者にも 同様の観点から課題が課せられることになります。介護サービスの目的が「自立支援」にあるならば 「自らの提供するサービスが利用者にどのような効果をもたらしているのか」「どのように自立支援に資しているのか」 を 自ら検証・明示することが求められるのです。

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