2004年12月号
ウエルビーコラム 2004年12月号
衣の下に鎧が見える
利権確保の批判に応えるインフォームドコンセントを
先日あるシンポジウムで 厚生労働省の老健局長の話を聞く機会がありました。現局長は 強い信念をお持ちのようでお若いころから勉強もされており 常日頃から敬服するところの多い方だと感じていました。その日も介護保険だけでなく 社会保障全体に対する改革について 熱く語っておられました。
ただ 気になったことがあります。介護保険の見直しは進めているが この制度は非常によくできた制度で 仕組み自体に手直しをするところはない。負担のことでいろいと議論はあるがどう転んでも国は困らない。困るのは保険者(市区町村)である。 という趣旨の発言です。
給付と負担の関係つまり若年障害者を介護保険の対象に加え 被保険者の範囲も拡大するという 省の方針が困難になり 政治的な解決に委ねざるを得ない現状に対する苛立ちからでしょうか。
個人的には 介護保険=long term care insurance は高齢者のみを対象とすべきものではなく ユニバーサルな視点で構築すべきだと考えます。だからといって 居直りとも取れるような発言は共感をもっては受け取られません。
いくら厚生労働省案が 国家百年の計を慮った理想だとしても 実現に至る道筋に疑念をもたれるような今のような手法―例えば重要なデータを介護保険部会の終了間際になって提示するなど―は 反感を買うばかりです。
三位一体改革の補助金削減や医療制度の混合診療に対する厚生労働省の姿勢とあいまって 利権確保に走る官僚の独善 ととられてもいたしかたないのではないでしょうか。
求められるのは 国民に対する明確な説明です。そのうえでオープンな論議をしていく必要があります。
いくら精緻なデータや理論を提示されても 国民や(質の問題はあるにしろ国民が付託したことには間違いのない)政治をないがしろにするようやり口は 旧態依然とした官僚主義としか映りません。
介護保険制度を「地方分権のフロントランナー」と自負するなら なおのこと 国民的な合意形成に向かって 丁寧で辛抱強い試みを続けていってもらいたいと願います。