2005年11月号
ウエルビーコラム 2005年11月号
事業経営の「ものさし」は揺らいでいませんか
民間事業者は顧客によって立つ
大阪市では労使癒着による職員の厚遇の改善などを目指し 出直し市長選が行われようとしています。その渦中の関市長の改革ブレーンの上山信一氏が日本経済新聞(11月2日付け夕刊)で興味ある話をされていました。
氏は 大手コンサルティング会社マッキンゼーを経て 現在は行政改革のプロデューサーを務めています。コンサルティングの合間に社会貢献として「行政経営」の改革に携わるようになったのが きっかけだということです。
当初 経営コンサルタントの目から見ると 「行政評価」にだけ注目が集まることには違和感があったそうです。評価はいわば体温計のようなもの。体をどう治すのかが重要なのに 体温ばかり測ってどうするんだ という思いを強く持ちました。
その後 行政にかかわるうちに「企業は利益を上げていれば成功といえるのですが 行政には何が成功かというものさしがなかった」ということに気づきました。ものさしがなくては 経営なんてできない。だから行政経営では たかが評価だけど されど評価ということになるというのです。
近年の(中央・地方を問わず)官の評価に対する執心ぶりは ここにも一因があるのでしょう。 介護保険制度改革においても 評価は重視されています。
たとえば 介護予防における「目標の達成度に応じた評価」=事業者に対するインセンティブ は目玉の施策になっています。 はたしてこの評価が 利用者に何をもたらすのでしょうか。介護や予防給付の真の目的が 利用者の自立であるなら 受益者である利用者(顧客)の満足度や幸福度こそが ものさしであるべきです。
また事業者の真のインセンティブは お上の決めた加算ではなく 利用者のもたらす収益であるはずです。
もちろん 抽象的・主観的な要素は 尺度としてはふさわしくはないでしょうし 介護保険市場は公費が投入されている「準市場」であり 市場原理にすべて委ねるのがいいとは思いません。しかし 手段である評価が目的化してしまうと 制度自体の意義が損なわれてしまう危険性があります。
サービス提供事業者は 行政の代替機関ではありません。事業経営者の皆さまには 与えられたものではない 自らの経営の「ものさし」を持っていただかなくてはなりません。
顧客である利用者が自分らしい生活を継続していくための支援を行い 満足してもらうことで収益を上げ 事業を継続・発展させるという基本は変わりません。