2006年4月号
ウエルビーコラム 2006年4月号
混迷のうちにスタートした制度改革に思うこと
「勝者の思想」「達成の思想」「成長の思想」
いよいよ4月。改正介護保険法が施行されました。短期間に矢継ぎ早に発出された膨大な解釈通知やQ&Aなどに辟易しつつも 日々前向きに事業に取り組んでいっらしゃる経営者のご苦労が目に浮かびます。
弊社にも 毎日改正内容に関するご質問が絶えることはありません。なかでも 新たに創設された介護報酬の加算や減算についてのお問い合わせが多数にのぼります。如何せん 厚生労働省の官僚が机上で組み立てたシステムですから 経営や現場のトップからは 多くの疑問が生まれるのはもっともなことです。
ここで 経営者の方々にとって大切なことは 先日のフォーラムでもお話しましたが「目先の加算や減算にばかり気をとられないでいただきたい」ということです。 その先(根本)にある われわれは「何(だれ)のために 何を目的に この仕事をし 生きているのか」という根源的な問いかけを忘れないでいただきたい ということです。
多摩大学大学院教授の田坂広志氏に『人生の成功とは何か』という著作があります。同書によれば 「人生の成功」については「勝者の思想」「達成の思想」「成長の思想」の 三つの思想があるといいます。 この三つは相対立するものではなく 心の中に同時に存在し・ 成熟し・深化していくものだと述べられています。
「勝者の思想」とは 人生を「競争」と考え そこにおいて「勝者」になることを人生の成功と考える思想です。 しかし この思想は「勝者になれるのは一握りの人間だけである」「その競争に勝ったとしてもさらなる競争に勝ち続けなければならない」「勝者になっても成功の喜びを感じることができない」という問題に直面します。
その「勝者の思想」が成熟したのが「達成の思想」です。この思想は人生において「目標」を定め それを「達成」することを人生の成功と考える思想です。競争による「喜びの奪い合い」から「喜びの高め合い」を可能にする思想です。しかし この思想にも「人生において夢を実現できるとはかぎらない」「人生において目標を達成できるとはかぎらない」という事実にぶつかります。また 人はどれほどのものを獲得し どれほどのものを達成しても その達成意欲が「欠乏感」から生まれてくるものであれば 決して満たされることはなく 常に欠乏感に苛まれることになります。
であれば 人生の成功を「人生の『困難』と格闘することによって 人間として『成長』すること さらに『成長』し続けていくこと」と考えていけば「達成の思想」を乗り越えることができます。これが「成長の思想」です。「夢」を実現するために さまざまな「困難」に挑戦し 人間として「成長」することができたならば それが最高の「報酬」と考えることができないでしょうか。
私は常々 生活を支えるサービスや介護にかかわる仕事をしている幸せのひとつに 仕事を通じて「『人生の最期』について考え 学んでいける」ということがあると思っています。
仕事を通じて 人生の成功とは「われわれ一人ひとりが『「最期の一瞬』に何を思うのかによって問われるものだ」と学びました。
現在のような 変化の激しい混迷した時期にこそ このような思いをあらためてかみ締めてみることが大切なのでは と思います。