2006年5月号
ウエルビーコラム 2006年5月号
顧客を逃さない仕組み
セブン‐イレブンと介護予防サービス
政府の月例経済報告によると 日本の景気は バブル期と並ぶ勢いだということです。個人消費の堅調さは コンビ二の活況を見てもうかがえますが 中でもセブン-イレブンは 創業から30年以上にわたり 日本のコンビニ・チェーンの中で圧倒的な成績を残しています。1店舖当たり1日の平均売上高は約65万円で 他の大手チェーンに15万円以上の差をつけています。セブン-イレブンの活動については TV・新聞・雑誌あらゆるメディアが連日のように報道しています。にもかかわらず なぜそれだけの実績を挙げ続けられるのでしょうか?
神戸大学大学院の小川進教授によると「売り逃さない仕組」が確立されているからだ といいます。
創業期からの社員は 「別に変わったことをしてきたわけではありません。うちは 普通に商売をしています。むしろ他のチェーンが売り逃しているだけです」と答えたそうです。「セブン-イレブンは最も売り逃がしの少ないコンビニ・チェーンである」それが答えだというのです。 「売り逃さない」といった視点で同社の売場を観察すると なるほど品揃えには 目を見張るほどの機動力があります。朝や昼は おむすび・サンドイッチに加えてミニアジア風焼きビーフンなどミニタイプのものが 夜は 大盛りジューシーソース焼きそばなど重めの商品といった具合に 時間帯ごとに売場を占める商品の種類が変わります。 また気温の変化に合わせて 日ごとに品揃えを大きく変えています。同じお茶でも 肌寒い朝と夜は暖かいものが 少し汗ばむ昼は冷たいものが販売されています。さらに 店ごとにも販売される商品は異なっています。例えば 多くの外国人が近くのオフィスに勤めている店ではガムを大量に陳列しているし ホテルが近くにある店ではパンスト・男性下着・靴下やYシャツも販売しています。セブン-イレブンでは こうした気温や天侯のちょっとした変化や立地を見越して品揃えを機動的に変え 在庫を持たないで売り逃しを極力出さない努力をしているのです。
同社は 高度な情報システムを店舗運営に活かしていることでも有名です。このような機動的な品揃えも「発注が自動化されているからできることだ」と想像しがちですが 実はそうではありません。
CEOの鈴木敏文氏は 「発注は 小売業が持つ最高の技術である。また店舗の人間が 会社の中で市場の変化に最も敏感でなければならない。発注を自動化してしまうと 発注技術も市場の変化に対する感度も退化してしまう。発注の自動化は 小売業として最もしてはならないことである」といいます。
一見 同じ商品を提供しているだけで差別化が図れないと思われるコンビ二でも その覇者は 「発注」という行為に システム化と人間の感度という2つの要素を組み合わせて 大きな差を生み出しています。
さて介護予防サービスが「そろりそろり」といった感じで動き出しました。
予防サービスは 事業所が1つに限られます。顧客に選ばれるかどうかが事業所の死活問題です。 利用者が楽しんで通ってくれるデイサービスや他には頼めないと思わせる訪問介護のサービスが提供できますか?
顧客を逃がさない仕組みは「研ぎ澄まされた感性」と「システム化」から生まれてきます。
本稿は「売り逃さない仕組み」(小川進・季刊「ビジネス・インサイト」No.53・2006年)を参考とさせていただきました。