2006年8月号

ウエルビーコラム 2006年8月号

制度改革を乗り越えるビジネス構造
内閣府調査から今後を俯瞰する

さきごろ 内閣府から興味深い調査結果が発表されました。「在宅介護の現状と介護保険制度の見直しに関する調査」というタイトルで本年4 月に施行された介護保険制度改正により期待される効果を分析し 在宅の要介護者・介護者の現状を詳細に把握することによって今後の在宅介護のあり方や在宅介護において介護保険制度が果たすべき役割を検討する というものです。

主な調査結果は 以下の通りです。

① 持病の状況をみると 調査対象となった要介護者の約9 割が持病ありと答えており 平均すると3種類程度の持病を持っている。ほとんどの疾病で血圧・血管関係の病気を併発している確率が高く 全体としての健康状態が悪い要介護者ほど介護を受ける傾向が見 られた。

② 要介護度の変化要因をみると 疾病により急激に要介護度が悪化した後 リハビリや 自然回復の効果が現れ改善している場合が要介護度改善の主なケースであった。要介護度 の改善と転倒予防や筋力トレーニングなどの行動の効果に有意な関係は見られなかった。 ただし 日常の生活習慣の中で家事や徒歩での外出などを行うことは重要で 要介護度を 統計的に有意に改善させることが示唆された。また 主な介護者が不健康であることと  要介護度が悪化することには統計的な関連があることが示された。

③ 全国を5地域に分け 地域別に主な在宅介護サービス(訪問介護サービス デイサー ビス・デイケア ショートステイ)の利用実績と事業所側理由による利用上の制約の有無に対する評価をみると 要介護度が高い場合 特に関東・甲信や近畿など大都市圏近辺ほど利用上の制約を感じている人の割合が高い。また デイサービス・デイケアやショートス テイは 制約を感じる人の割合が高い地域ほど 平均利用実績が抑えられている。

④ 訪問介護サービス デイケア・デイサービス ショートステイの各サービスにつ いて価格弾力性と所得弾力性を推計すると 弾力性はいずれも1より小さいという結果が得られた。また訪問介護サービスはデイケア・デイサービス ショートステイに対 して粗代替財であり サービスの対価が上がるとデイケア・デイサービスやショートステ イの需要が増える関係が見られた。

⑤ 軽度の要介護者に対する予防給付の強化を重視した2005年度介護保険法改正内容が事前にどの程度主な介護者に知られているかを調査した結果 どの項目でも知らない わか らないが過半を占めたが 制度改正の主な対象である要支援以上の比較的軽度の要介護世帯や介護者の学歴が高い場合にはやや認知度が高かった。

なによりまず 予防重視システムへの移行がはたして成功するのか が疑問視されます。

日本経済新聞の磯部文雄厚生労働省老健局長のインタビュー(2006年8月8日・夕刊)によると 軽度者からの不満や苦情は届いているかという問いに対しては「新制度にともなう苦情はほとんどない。軽度者に対する影響は許容される範囲内だと思う」 デイサービスでの筋トレについては「喜んで取り組んでいる人が多いと聞いている」という回答でした。

現状を知らない裸の王様なのか 意識的に政策の正当性を主張しているのかはわかりませんが この調査を見ても 今後の先行きが危ぶまれます。

次に 事業の方向性に有益な示唆をしてくれているのが④の結果です。必要な在宅サービスは 所得や価格に左右されず購入されるということです。ただし 要介護度が低いグループ(要支援など)では価格弾 力性は1を大きく上回って おり価格変化に対するサービス利用の変化幅が大きいことが示唆されています。

であれば 軽度者に対する生活援助・家事援助サービスは 保険外でも低価格で使い勝手がよいサービスが供給できればひとつの市場を形成できると考えられます。福祉用具の自費レンタルについても同様のことが言えます。

この調査でも「制度改正に関する認知度と生活援助中心サービス需要の関係をみると 認知度が高 まるほど需要が増えることから 制度改正に対する理解の深まりとともに需要が増加する」という可能性が示めされています。軽度者のサービス体系と中重度者のサービス体系を明確に区分して 制度と制度外を組み合わせた収入構造の確立が求められるといえるでしょう。  

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