2006年11月号
ウエルビーコラム 2006年11月号
介護・福祉事業者の企業価値とトップの責務
老健施設業務停止に思うこと
東京都の介護老人保健施設「すずしろの郷」が業務停止命令を受けた問題で 都は施設を運営する医療法人杏稜会の設立認可を取り消す方針を決めた と報道されています。取り消しの理由については「都の指導や命令に反して医師の施設管理者を常勤させていない」「土地・建物ともに医療法人の所有ではなく多額の負債を抱えて経営破綻状態であること」などが挙げられています。医療法に基づく医療法人の設立認可取り消しは都内では初めてです。
この事例に見るまでもなく 近年 企業のコンプライアンス(法律遵守・倫理遵守)についての責務や意識については 一層の厳格さが要求されるようになりました。さらには CSR(Corporate Social Responsibility;企業の社会的責任)という言葉や概念もすでに一般化しています。
いうまでもなく 雪印やエンロンのような事件が発覚すると 法人自体が存続できなくなるという危機意識は 十分高まっています。しかし 私自身 このような時代の流れを前にして 未だに「やらされ感」を持って義務的・受動的にとらえている組織や経営者が多いことに いささか失望を感じていることも事実です。
「ばれなければいい」「制裁措置さえまぬがれればいい」レベルは論外としても コンプライアンスにかかわる取組みが コストとしてしかとらえられていないのも確かです。
①コンプライアンスを原点に ⇒ ②リスクマネジメントを徹底し ⇒ ③コーポレートガバナンス(企業統治)を明確化 ⇒ ④CSRを意識し事業を通じて社会貢献する ことが企業や組織の使命ではないでしょうか。
このようなプロセスを通して企業価値を高めていくことこそ 事業とりわけ介護の世界で事業を行う者がめざすべき姿です。
なによりもまず 経営者自身が倫理観や法令遵守の精神を強く持つことが大切です。
たとえ不正を行った者が部下の社員であったとしても その責めは経営者が負うのはもちろんですが その原因を追求しトップ自身の日ごろの行動や言動にまで思いをいたらせる のが本来の姿のはずです。
セコムの創業者の飯田亮氏は 事業が軌道に乗りかけたとき 相次いで起こった社員の不祥事に頭を悩ませたそうです。その結果 その原因がてんぐになりかけていた自分の慢心にあると気づきました。口をすっぱくして法令順守を説くだけでは 不正はなくならない。すべては上司と部下の関係にかかっているといくことがわかったといいます。
常日頃から トップ自らコンプライアンスを意識し 自ら懸命に働く姿を部下に示していくことが何より大切です。
介護・福祉の企業価値は 時価総額ではなく このような社会的責任を果たし顧客から認知・信頼を得ることに求めるべきものではないでしょうか。