2008年5月号
ウエルビーコラム 2008年5月号
「国策市場」から「国民市場」へ
国民の幸福実現のための議論と行動を
「後期高齢者医療制度」が たいへんな逆風下にあります。4月27日の衆議院山口2区補欠選挙でも 有権者の最大の関心を集め 与党惨敗の要因となりました。この新制度については 全国町村会の山本文男会長(福岡県添田町長)が 介護保険をめぐる議論のなかでも この4月に起きるであろう混乱を危惧し警鐘を鳴らしていましたが はからずも現実のものとなりました。
時を同じくして 民主党提出の「介護労働者の人材確保に関する特別措置法案」が 条文がたった一つの「介護従事者等の人材確保のための介護従事者等の処遇改善に関する法律案」に大幅修正された上で 全会派による共同提案となりました。 「やはり」というのが正直な感想ですが 意味のない法律が生まれただけの結果には失望を禁じえません。
介護労働者の雇用問題については 4月18日から「介護労働者の確保・定着に関する研究会」が検討を開始しました。この研究会は 厚生労働省職業安定局が所管していますが 第1回会合のでは 事務局側が「介護職員の就労者数は 介護保険導入以降 毎年約10万人程度増加しており 将来の需要増に必要な介護職員の確保は可能と考えている」という説明がなされました。
昨年見直しが行われた「福祉人材確保指針」の「(福祉・介護サービス従事者の離職率が高いという現状から見て)これらの離職者を補充する人材等の確保が相当数必要となる」という認識からも 大きく後退しているとしか思えず 現実感・危機感の欠如にはあきれるばがりです。
介護報酬と切り離された議論は根本的な問題解決につながるのでしょうか。縦割り行政や無謬性・自己保身という官僚の弊害に 何度私たちは裏切られてきたでしょうか。現実感覚と真の危機意識に裏打ちされない論議の積み重ねは 第二の年金問題 後期高齢者医療制度問題を生み出すだけです。「労働環境の整備は事業者の責任である」というシナリオのアリバイ作りに利用されるだけの研究会であってはなりません。
政治家も権力闘争の手段としてではなく 国民・社会の利益のために実のある行動をとることが急務です。福田首相の肝いりで「社会保障国民会議」が発足しましたが 野党はそっぽを向いたままです。介護や医療のみならず社会保障全般 さらには国民の幸福実現のための幅広い議論を超党派で行わない限り この国の閉塞感は打破できないでしょう。
介護保険市場は いわば「国策市場」として誕生しましたが 国民的なニーズは それをはるかに凌駕し「国民市場」へと成長しています。
事業者・経営者は ふがいない政治と行政を越えた視点を持って 顧客から支持される事業行動を積み重ねていかねばなりません。