2012年7月号
ウエルビーコラム 2012年7月号
「患者」ではなく「人」が対象
「介護民俗学」が教えてくれること
先週末の日本経済新聞の夕刊に六車由美さんのインタビューが載っていました。
ご存知の方も多いと思いますが 六車さんはサントリー学芸賞も受賞した気鋭の民俗学者です。
それが2009年から特別養護老人ホームでデイサービスやショートステイの介護職員として勤務するようになり 彼女が出会った利用者からの聞き書きをまとめ『驚きの介護民俗学』として今年の春出版しました。
私も最近読み終えたばかりですが 示唆に富んだ記述がそこここにあります。
「回想法と民俗学の聞き書きは似て非なるもので 介護や相談援助の現場では 非言語的コミュニケーション傾きがちである」「ケアは相互行為であるが 決してケアする者とケアされる者との対等性を意味しない」「民俗学的アプローチでは調査者は話しててから教えを受ける」などです。
先ごろ 厚生労働省は報告書「今後の認知症施策の方向性について」を発表しました。
老健局 社会・援護局障害保健福祉部 医政局 保険局という部局を横断した「認知症施策検討プロジェクトチーム」がとりまとめたものです。
「これまで認知症の人々が置かれてきた歴史を振り返り 認知症を正しく理解し よりよいケアと医療が提供できるように努めなければならない」と反省の弁から始まっています。
また「患者」を「人」と「治療」を「対応」と言い換えるなど 認知症を医療行為でしか対応できない病気のように受け取られるないように言葉づかいにも細心の注意が払われるなど 評価する声が多く挙がっています。
ようやく「病」ではなく「人」を対象としたケアが認知され今後のメインストリームとなっていく動きが見えてみました。
「人間」とその「人生」への「敬意と感心」という発想や視点を忘れずにいるためには ケアは民俗学に限らず 多くの知見に対してもっと貪欲に接点を求めていくべきだと思われてなりません。