2015年3月号
ウエルビーコラム 2015年3月号
高齢者はなんのために生きているのか
負担=給付でも豊かな未来は実現する
NHK NEWSによると「国民の所得に占める税金や社会保険料などの負担割合を示す『国民負担率』は消費増税や社会保障関連費用の増加などで 新年度(2015年度)は 過去最高を更新する見通し」だということです。
「国民負担率」は 個人や企業の所得に占める税金や社会保険料などの公的な負担の割合を示すものです。
新年度の国民負担率は 今年度に比べて0.8ポイント増加して43.4%となり 4年連続で過去最高を更新する見通しだということです。
これは消費税率が去年8%に引き上げられたことや厚生年金の保険料の引き上げなどが主な要因とされています。
しかし 海外との比較では低水準にあるとの指摘は多く フランスやドイツといった西欧各国は軒並み5割を超えるとされています(下図「国民負担の国際比較」参照)。
財務省は財政赤字の負担を将来世代に先送りすることで 現在の国民負担率を低く抑えるかたちになっているとしています。
出口治明・ライフネット生命保険代表取締役会長兼CEOは「政府の役割は 公共財や公共サービスの提供にある。そのために市民に租税や社会保険料などの負担を求め 配布基準を上手に設計した上で 市民に給付を行う。それが政府の基本的な仕事なのだ。即ち 負担が給付そのものなのだ。…負担と給付は常に等しくなるはずだ。…およそマクロで見れば『無い袖は振れない』というしかない」と述べています(ダイヤモンド・オンライン)。
まさしく「正論」でしょう。
高度経済成長時代の「低負担・中福祉」路線は もう望めません。
「中負担・低福祉」あるいは「高負担・高福祉」以外の選択肢はあり得ないのが現実です。
では高齢化は「若い世代に負担を強いる」負の現実でしかないのでしょうか。
出口氏は別のブログで「年寄りは何のために生きているのか」について「次の世代を守るために あるいは次の世代が生きやすくなるために生きている」という見解も示しています。
約180万年前の化石から歯がすべて抜け落ちていたにもかかわらず数年は生きていた原人がいたことが分かったそうです。
われわれの先祖も歯を無くした人をケアしていた。
それはなぜでしょうか。
学者たちの結論は「群れが生き残るのに役に立つから」というものです。
「地域包括ケアシステム」を構築する意義について 財政面から論じられることが少なくありません。
けれども 猪飼周平・一橋大学大学院社会学研究科教授が『病院の世紀の理論』で看破したように「生活ニーズに基づいたQOLを尊重するケア観が普遍性をもってきたため」だというロジックは 私たちが太古から抱いている人間観からも妥当ではないかと感じられます。
皮相な高齢社会の分析に終始するのではなく「人間らしい高齢社会のもたらす果実を私たち自身が享受できる社会を目指す」と一歩踏み出せば 豊かな未来は決して実現不可能ではないはずです。
株式会社ウエルビー
代表取締役 青木正人