2019年6月号

働き方改革の本当の名宛人は?
生産性向上は経営者の責務!

医療・介護分野で、このところやけに目につく言葉が「生産性の向上」です。 先月末に開催された第2回「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」の会合では、「介護職員の平均労働時間・残業時間を2020年度末までに縮減する」ことが、工程表に明記されるとともに「2040年までに介護分野の単位時間サービス提供量(各分野のサービス提供量÷従事者の総労働時間で算出される指標)を5%以上改善させる」という数値目標が示されました(医療・福祉サービス改革プラン)。
同様に、医師については7%の改善が求められています。

この目標を達成するための方策が
1.ロボット・AI・ICT等の実用化推進、データヘルス改革
2.タスクシフティング、シニア人材の活用推進
3.組織マネジメント改革

4.経営の大規模化・協働化
の4つの改革だとされています。

このうち「組織マネジメント改革」については
●意識改革、業務効率化による労働時間短縮〈医療機関〉
●福祉分野の生産性向上ガイドラインの作成・普及・改善
●実績評価の拡充など、現場の効率化に向けた工夫を促す報酬制度への見直し
●2020年代初頭までに介護の文書量半減
が掲げられました。

これらの施策が進められるうえでの最大の懸念は、生産性を向上させるとは、コストカットや利益の極大化と同義だと誤解している経営者が少なからず存在するという事実です。

「介護保険の鉄人」と称された香取照幸・駐アゼルバイジャン日本国特命全権大使は、「公定価格が存在している世界で、生産性、それも『労働者の働き方』という意味で生産性を論じるのは、有害無益です。矛盾を現場労働者に押し付けるだけの結果に終わります」(「謎の新興国アゼルバイジャンから」第46回「『生産性』ってなんでしょう―こんなに長時間労働してるのに給与が上がらない。日本人は働きが悪い?『年金時代』)と看破しています。

続けて、「『生産性革命』も『働き方改革』も『成長戦略』も、真の名宛人は『企業』と『経営者』…付加価値生産性を高める経営をして労働者の給与を上げ、それこそ社会保険もきちんと適用して能力にふさわしい処遇をする。それができないような、『付加価値』を生み出せないような企業・経営者には市場から退出してもらう」という、経営者の使命を明確に述べています。

権丈善一・慶應義塾大学商学部教授は、「昨今、サービス産業の生産性は低いとみなされて、生産性革命が言われている。その際に多用されている生産性は付加価値生産性であって、その付加価値の低さは、ほぼ『彼らのうけとる支払い』の低さに等しい。…『うけとる支払い』が低かったり、需要が飽和している人ばかりに支払いがなされたりする社会では需要の創出が不足し、他人の生産を刺激して促される投資も不足することが予測される」(「AIで本当に人間の仕事はなくなるのか?アダム・スミスが予見できなかった未来」2018年2月3日『東洋経済オンライン』)と、わが国の経済低迷の要因にも言及しています。

経営者の責務は、かくも大きなものなのです。

株式会社ウエルビー 
 代表取締役 青木正人

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