2020年7月号

パンデミックがあぶりだしたリスクに向き合う
事業構造の改革が急務

先月、人とまちづくり研究所(代表理事:堀田聰子・慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科教授)による「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が介護・高齢者支援に及ぼす影響と現場での取組み・工夫に関する緊急調査」の結果報告書が公表されました。

事業所管理者に新型コロナの事業所運営への影響について、4月末までに一時期でも該当するものを複数回答で尋ねたところ、「いずれもあてはまらない」は34.0%(サービス区分別では「通所系」<「訪問系」<「多機能系」<「施設・居住系」、都道府県区分別では「4月7日に緊急事態宣言の対象となった7都府県(以下、7都府県)」<「4月16日に特定警戒都道府県に指定された左記以外の6道府県(以下、6道府県)」<「その他」)となっています。
【新型コロナの事業所運営への影響(複数回答:都道府県区分別)】

影響の内容をみると、「利用者・家族希望による利用控え・キャンセル(50.5%)」が最も多く、次いで「新規利用者/入所者等受入の制限・停止(22.1%)」「利用者への利用自粛の働きかけ(17.5%)」の順でした。

最も多くあげられた「利用者・家族希望による利用控え・キャンセル」について、サービス区分別にみると、「通所系(76.7%)」「訪問系(72.6%)」で特に高く、都道府県区分別では「7都府県(60.2%)」「6道府県(51.9%)」「その他(43.7%)」と続いています。

居宅のケアマネジャーに利用者が利用していた事業所の運営への影響を尋ねたところ、57.0%が「縮小あり」、44.1%が「休止あり」、3.2%が「廃止あり」、58.9%が「新規受入中止あり」と回答しています。
サービス種類別にみると、縮小・休止ありは「通所介護」「通所リハ」「短期入所」、新規受入中止ありは「通所介護」「短期入所」「訪問介護」の順です。
廃止ありは「通所介護」が2.4%と最も高く、都道府県区分別にみると「7 都府県」ではこの割合は5.1%となっています。

本年4月の事業活動収入と前年同月分を比較すると、「ほぼ同じ(44.7%)」が最も多く、「減少」は29.5%、「増加」は14.4%。
事業活動収入の前年同月比「減少」は、サービス区分別にみると「通所系」で58.1%と最も多く、「通所系/7都府県」では73.0%。
事業支出の前年同月分を比較すると、全体では「ほぼ同じ(52.4%)」が過半数を占め、次いで「増加(19.9%)」「わからない(15.7%)」、「減少」は7.3%となっています。
利用控えとキャンセルが事業収支に大きな影響を与えたことが、一目瞭然です。
この惨状は避けられなかったのでしょうか。
【地域密着型通所介護の収支 2019年度介護事業経営概況調査】

たとえば2019年度介護事業経営概況調査によれば、小規模の地域密着型通所介護の年間収入は平均2,368,000円、税引後の利益率(収支差率)は2.3%、つまり、実額にすると年間54万円、月4万5千円の利益しかありません。
利用者1人の1日あたり収入は8,600円程度ですから、月に6回利用が減ると吹き飛んでしまう額でしかありません。
にもかかわらず、通所介護の介護報酬は改定ごとに引き下げが続いてきたのです。
当然の結果、つまり構造的に問題があることは明白です。

では、政府あるいは介護報酬の低さだけが問題なのでしょうか。
当然このような構造的な欠陥は、事業者も承知のうえです。
厳しいようですが、それを棚上げして他者だけを責めるのは、制度ビジネスのリスク認識と対応に甘さがあると言わざるを得ません。

災害やパンデミック時に、行政が利用者保護のために救済措置を施すのは当たり前ですが、事業者もBCPをはじめとしたリスクマネジメントや緊急時の備えは欠かせません。
今回の経験を奇貨とするには、事業者としての覚悟と改革が問われます。

                                  株式会社ウエルビー 
                                  代表取締役 青木正人

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