2021年5月号
目的を再確認した医療体制議論を
民間病院バッシングは不毛
第4波の渦中にある新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う医療現場の現状は、大阪を筆頭にまさに窮状といえます(「医療崩壊」という言葉が安易に使われていますが、現場は決して崩壊などしていないのは自明です)。
一部の報道機関やネット上で民間医療機関の新型コロナウイルス患者の受入れ姿勢へのバッシングが巻き起こり、「『患者より経営』の民間病院」などといった刺激的な見出しが目に飛び込んできます。
日本経済新聞は5/4の社説で「日本の医療機関は自由開業制で、政府や都道府県には民間病院に患者の受け入れを命令する権限はない…非常時には医療機関の「経営の自由」を制限し、強制力を持って医療機関に病床を確保させることができる仕組みを早急に整えるべきだ」という主張を展開しています。
【公立・公的等・民間別・病床規模別の新型コロナ患者受入可能医療機関等】出典:厚生労働省(1/10までに報告があったもの)
たいへんな逆風ですが、伊関友伸・城西大学経営学部マネジメント総合学科教授は、連合総研レポート「DIO」2021年4月号「新型コロナウイルス感染症と自治体病院」で、次のように指摘しています。
「現場を見れば民間病院で患者の受け入れについて頑張っておられる病院もあるし、自治体病院でも、受け入れ能力があるのに患者の引き受けが今一つの病院もある」
「民間病院の相当数が新型コロナウイルスの患者を受けていない100床未満、100床以上200床未満の病院は、自治体病院も患者を受けていない」
このことは、上記の厚生労働省の資料からも読み取れます。
小規模の病院では、民間病院であろうと自治体病院であろうと無理に感染症の患者を受けては、患者やスタッフの感染リスクが大きいのは当たり前です。
また、多数の民間の慢性期病院の場合、病床は高齢者で満床で、新型コロナウイルスの患者を入れる余裕がないのも事実です。
現下の窮状を理由とした短絡的な批判は、医療への不信をあおるだけになりかねません。
たとえば、介護療養病床から介護医療院への転換が遅々として進まないのも、民間病院側の医療行政への信頼感が足りないことがその大きな要因です。
厚生労働省の官僚の多くは、診療報酬一本やりの政策誘導の限界を認識しています。
地域医療構想など医療提供体制の構造改革を進めるためには、関係者間の信頼とめざす姿の共有が欠かせません。
患者そして地域医療への貢献というミッションに違いはないという原点に戻って、今こそ相互理解と協働が求められます。
株式会社ウエルビー
代表取締役 青木正人