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月刊コラム

2021年7月号

2021年7月号

年齢による負担設定は「全世代型」理念を逸脱
後期高齢者への2割負担導入を考える

先月初め「全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案」が可決・成立しました。
同法案には、後期高齢者医療の被保険者のうち、一定所得以上であるものについて、患者負担割合を2割とすることができる規定が設けられています。
新たに2割負担になるのは、単身世帯で年収200万円以上、夫婦ともに75歳以上の世帯では年収計320万円以上の人で、全体(約1815万人)の2割に当たる約370万人が該当します。
社会保障制度改革推進会議や政府税調、財政審などの委員を務める土居丈朗・慶應義塾大学経済学部教授は、「年齢でなく負担能力に応じた負担が設定されたことは、社会保障負担を改める第一歩として評価できる。年収300万円の64歳以下は3割負担なのに、同年収でも75歳以上だと1割負担だったことを、来年度後半から改められる。特に2022年度から団塊世代が75歳以上になり始めるのに間に合った点では大きい」(「後期高齢者医療の2割負担導入の法改正成立を受けて」東京財団2021年6月24日)と述べています。

この法案の国会審議の中で、二木立・前日本福祉大学学長は、「中所得の後期高齢患者の一部負担の2割引き上げに反対する」参考人陳述を行いました。
反対理由は、次の4点です。
①「応能負担原則」は保険料や租税負担にのみ適用される
②医療には「受益者負担原則」を適用すべきでない
③後期高齢者の医療費は非高齢者の約5倍
④後期高齢者の負担増のうち現役世代の負担減に回るのは2割弱にすぎない
いずれも、明快な論旨でなるほどと思わせられます。
こうした論点から、二木氏は「医療保険の一部負担は究極的には全年齢で廃止すべき」(「二木教授の医療時評」『文化連情報』2021年6月号)という主張を掲げています。
ただし、これをすぐ実現する政治的条件はない、という現実的な情勢判断も行っています。

二木氏と同様な観点から自己負担率について論評しているのが、権丈善一・慶應義塾大学商学部教授です。
権丈氏は、「医療の自己負担率で低所得者対策をやろうとしていること、それを年齢区分で行っていることは歴史的な遺制にすぎない」(「高齢期の医療費自己負担は1割、2割、それとも?-『高齢者』ではなく『高齢期』 世代間対立は不毛だ」『東洋経済オンライン』2020年11月25日)と、世代間対立をあおる政策の愚を指摘しています。
【高齢者と若者世帯の年収階級別貯蓄現在高】出典:令和3年度予算の編成等に関する建議(財務省

左図のように、高齢者は、現役世代と比べて平均的に所得水準は低い一方で、貯蓄現在高は高く、所得が低い高齢者の中にも相当の金融資産を保有するケースもあります。
権丈氏も、「今の高齢者は、『貯蓄現在高』から『負債現在高』を差し引いたネットのストックは現役と比べて圧倒的に多い。しかも相当数の人たちに、安定収入としての公的年金がある。人が高齢期を迎えれば、ストックをフロー化していくのは自然な姿であるし、そのことを視野に入れることは、自然なライフプランであろう。フローとストックの双方を勘案すれば、年齢で区分された現役期と高齢期、いずれのほうが高い支払い能力なのかは判別できない」(同上)と指摘しています。
 
しかし、将来的な自己負担割合の見通しは、二木氏の主張とは異なり、「日本のように、フリーアクセス、民間の医療機関、出来高払いという制度特性を持ち、加えて財政には余裕はないというこの国では、将来的には3割に揃えるということになるのではないだろうか。ゆえに、今の2割論議は、3割への通過点なのだろうと観察している」(同上)と述べています。

年齢のみによって自己負担割合の差を生じさせるのは合理的な理由を欠き、本来の意味の「全世代型」社会保障の理念から逸脱するものと考えられます。
マイナンバーカードを社会保障カードとして整備し直す、などの方策を用いて、公正で納得感のある負担割合が実現されることを望んでいます。

                                  株式会社ウエルビー 
                                  代表取締役 青木正人

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