2022年2月号

人員基準の緩和議論は千載一遇
思い込みを排し現実を評価・分析

日本経済新聞の1面の「1人で4人介護可能に 政府、生産性向上へ規制緩和検討」(12/21)という見出しは、大きなハレーションを引き起こしました。

反対論には
「ICT・介護ロボット等の活用が十分に広まっているとはいえないなかで、この議論は時期尚早」日本介護福祉士会
「生産性向上議論には、人生の晩年の尊厳を損なう危うい側面がある」リガーレ暮らしの架け橋・山田尋志理事長、など
賛成論には
「人員基準の緩和の議論の方向性には基本的に賛成」全国介護事業者連盟・斉藤正行理事長
「利用者にとっての品質確保、職員の負担軽減が図られ、テクノロジー・データ活用による業務時間の削減効果が認められる場合、その改善効果の範囲で配置すべき員数を見直すべき」日本経済団体連合会
などがあります。

そもそも、この記事は、内閣府の規制改革推進会議「第7回 医療・介護ワーキング・グループ」(12/20)における「介護施設における介護サービスの生産性向上および医療アクセスの向上」についての議論が発端です。
ただし、この日の議論で内閣府(政府)が、4:1の人員基準を提起したという事実はなく、日経らしい(?)先走り報道です。

【SOMPOケアの介護付きホームの人員配置基準見直し提案】出典:内閣府「第7回医療・介護WG」2021年12月20日

会議では、ICTやロボットの導入、アウトソーシングによるオペレーションの改善により、サービスの質を落とさずに人員配置の効率化が可能になるという趣旨のプレゼンテーションを、改革に積極的な北九州市と若竹大寿会、SOMPOケアが行っています。

業界関係者であれば、現状3:1の配置では業務が回らず、多くの施設や居住系サービスは限りなく2:1に近い配置を強いられているのは周知の事実で、4:1配置などは論外です。

一方、「なぜ『3対1』の人員配置基準にしているのか」という国会質問(2007年10月9日提出 質問第100号;衆議院議員山井和則)への政府の答弁も、「現在の人員配置基準は、従来おおむね4対1であったものを、平成12年の介護保険制度導入時に、介護保険施設における人員配置状況やサービス提供の実態を踏まえ、3対1に改善したものであり、すべての施設が適切なサービスを提供するために遵守すべき最低限の基準としては現時点においても適正なものであると考える」(2007年10月19日受領 答弁第100号)と、根拠としては薄弱と言わざるを得まえません。

以前であれば、荒唐無稽な暴論と片付けられそうな報道が深刻に受け止められている最大の原因は、少子高齢化に起因する、介護サービスにおける需給バランスの深刻な悪化です。
こうした現状を踏まえて、厚生労働省のスタンスも従来の規制一辺倒「基準緩和はタブー」から大きく変化しつつあります。

医療・介護ワーキング・グループの委員からの「有料老人ホームの人員配置基準の見直しについて、次期介護報酬改定に向けて検討することでは遅すぎるため、どのような段取りで、どのようなエビデンスを事業者と協力して収集し、どのようなスケジュール感で結論を出すのか、あらためて検討いただき具体的に示してほしい」という質問に、厚生労働省は次のように回答しています。
「介護給付費分科会において速やかな議論が行えるよう、令和4年度前半以降、随時、実証事業の進捗等を同分科会に報告するとともに、令和4年度第4四半期頃から令和5年度において収集したデータ等に基づき、介護現場の生産性向上等に係る人員基準の方向性および関連する報酬の取扱い等を具体的に議論していくという想定スケジュールの下、着実に検討を進めてまいります」

さすがに、2024年度介護報酬改定前の見直しには同意していませんが、人員基準緩和の議論に前向きに取り組む姿勢をうかがわせています。
反対論者も賛成論者も思い込みにとらわれず、これを好機ととらえて、前向きの話し合いをはじめることがなによりも求められます。

                                  株式会社ウエルビー
                                  代表取締役 青木正人

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