2022年3月号

違いを認め合う土壌を耕す
政治的疎外のもたらすリスク

日本生産性本部は、企業経営者や学識者などが日本の諸課題を議論する「令和国民会議」、通称「令和臨調」を発足させると発表しました。
2月28日、共同代表に就任する日本生産性本部の茂木友三郎会長は、経済界や労働組合、学界などの関係者とともに記者会見を行い「与野党が党派を超えて取り組まなければ解決困難な課題に取り組みたい。そのための合意形成活動、世論形成に尽力する」と述べました。
【令和臨調の体制図】

「日本の未来をまもる~日本社会と民主主義の持続可能性」をキーワードに、民主主義の仕組みや政治のあり方を対象にした「統治構造改革」と、日本経済の停滞や格差問題を解決に導くための「財政・社会保障」、人口減や超高齢化といった現実を直視した「令和の国土構想」の3つのテーマの下に専門部会を設けて議論を進めるとしています。

「増税なき財政再建」を掲げた、土光敏夫を会長とした第2次臨調(土光臨調)が有名ですが、「臨調」というのは「臨時行政調査会」の略語で、本来は、行政改革のため,内閣総理大臣の諮問機関として設置された審議会をさしています。

政府は、「成長と分配の好循環」を旗印にした「新しい資本主義実現会議」の下、「新たな全世代型社会保障構築会議」「デジタル田園都市国家構想実現会議」「デジタル臨時行政調査会」さらには「公的価格評価検討委員会」も立ち上げています。
屋上屋を架すことのないように願うばかりですが、世間一般の関心が高いとは感じられません。

【政治的疎外の要因と帰結】出典:「ポピュリズムを招く新しい『政治的疎外』の時代」谷口将紀

「政治的疎外」が大きな要因のように思えます。
政治的疎外とは、「本来、民主主義においては人びとが権力者となるはずなのに、いつの間にか政治が自分たちではコントロールできないものになってしまい、逆に政治によって自らが翻弄されている感覚」(谷口将紀・東京大学教授)のことです。

政治的疎外がもたらすのは、単なる政治に対する無関心にとどまりません。
自らの不満を既得権益層や他の要因に転嫁したり、政治局面を一変させてくれそうなカリスマ指導者の登場を待望したりすることにつながります。
ここに、ポピュリズムが芽生えてきます。

今まさに、ロシアのプーチン大統領によるウクライナ侵攻という軍事的暴挙が勃発しています。
日本は欧米に比べて、ポピュリズム台頭の危機にさらされているという意識は強くはありません。
しかし、その違いは「発火点の有無に過ぎない」(谷口将紀)とする見立てもあります。
政治的疎外がもたらすポピュリズムは、決して対岸の火事ではないことは肝に銘じておくべきです。

上述した民間臨調では、いわゆる有識者だけだなく、大学生などとも意見を交わしながら政治、経済、社会などの課題に対して政策提言を行っていくとされています。
幅広い層から、多様な意見が届けられることが必要です。

国民の間に意見の相違があることが問題ではありません。
違いを認識しない、認めないという土壌や風潮こそが危険なのです。

                                  株式会社ウエルビー
                                  代表取締役 青木正人

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