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月刊コラム

2021年3月号

2021年3月号

科学的介護が成果を生むためには何が必要か
不確実性を前提とした意思決定システムを

2021年度介護報酬改定の最大のポイントの一つに「科学的介護情報システム」(ライフLIFELong-term care Information system For Evidence)の導入が挙げられるのは間違いありません。
「LIFEへのデータ提出とフィードバックの活用によりPDCAサイクルの推進とケアの質の向上を図る取組を推進する」ことを目的に、訪問系サービスを除く、施設系・通所系・居住系・多機能系サービスを対象に、事業所の全ての利用者に係るデータをLIFEに提出してフィードバックを受け、事業所単位でのPDCAサイクル・ケアの質の向上の取組を推進することを評価する「科学的介護推進体制加算」も創設されました。

発端となった、2017年10月から2019年7月にかけて開催された「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」の「取りまとめ」においては
エビデンスに基づいた自立支援・重度化防止等を進めるためには、
① エビデンスに基づいた介護の実践
② 科学的に妥当性のある指標等を現場から収集、蓄積し、分析すること
③ 分析の成果を現場にフィードバックすることで、更なる科学的介護を推進
といった、現場・アカデミア等が一体となって科学的裏付けに基づく介護を推進するための循環が創出できる仕組みを形成する必要がある。
とされました。
医療におけるEBM(Evidence-Based Medicine:根拠(エビデンス)に基づく医療)を、大胆に介護に取り入れる試みです。

「介護分野においても科学的手法に基づく分析を進め、エビデンスを蓄積し活用していくことが必要である。また、このような分析の成果をフィードバックすることによって、事業者におけるサービスの質の向上も期待できる」(同上)という認識には大いに共感できます。
しかし、科学的データの蓄積とフィードバックによるPDCAサイクルが、介護の目的を達成するための唯一無二の方策であるかのように受け止められつつあることには抵抗を感じざるを得ません。
昨年の12月の本コラム「PDCAのスピードは介護に不向き!?」で述べたように、「間を置かず提供されるサービス提供とそれに即応した質の改善が要求される介護事業にはPDCAサイクルが不向き」だという視点が欠けていることが懸念されます。

【4つの不確実性】『不確実性時代の戦略思考』のコートニーらの図を改変

『不確実性時代の戦略思考 4段階に分けて適切な戦略と行動を選択する』(ヒュー・コートニー、ジェーン・カークランド、パトリック・ビゲリー「Harvard Business Review」2009年9月号)によれば、われわれが直面しているのは図のような4つのレベルの不確実性だとしています。
レベル1〔確実に見通せる未来〕
そもそも不確実性が非常に低く、ほぼ将来が予見できる
レベル2〔他の可能性もある未来〕  将来の完全な予見はできないが、「概ねこうなるだろう」という選択肢が複数絞られる
レベル3〔可能性の範囲が見えている未来〕 選択肢に絞り込めるほどには将来を見通せないが、ある程度の確率と振り幅で事業環境の変化が予見できる
レベル4〔まったく読めない未来〕 不確実性が事業環境の多様な範囲にわたるため、将来を予見するためのより所すらない

ウィズコロナ・ポストコロナのVUCAと呼ばれる「複雑で曖昧で変動し、不確実」(2020年10月コラム「VUCAの時代に求められる政策決定プロセス」参照)が恒常な時代におては、とりわけ医療や介護事業においては、レベル3の「可能性の範囲が見えている未来」あるいはレベル4の「可能性の範囲が見えている未来」へ対処することがマネジメントの使命だといえるでしょう。

「尊厳ある自立支援(生活)の実現」というミッションが明確な医療や介護事業では、現場にPDCAサイクルを無理強いすることは迅速な意思決定を阻害する危険性が高いといわざるを得ません。
「OODAループ」に見られるような「状況を見ながら未来を予測し、それに基いて今後の行動を決定して実行する」という、アジリティ(agility:機敏性)に富んだ意思決定のフレームワークを確保し発展させることが経営の肝だといえるのです。

前述した「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」の「取りまとめ」においても
「介護の場は、高齢者等の生活の場でもあることから、より幸福感や人生の満足感等も含めた生活の視点を重視し、利用者の社会参加、食事の方法、排泄の方法、日中の過ごし方、本人の意思の尊重、本人の主体性を引き出すようなケアの提供方法等について、現場へのフィードバックも含めて検討を進めていく」
という「将来的な方向性」が記されています。

顧客(利用者)の自己実現につながるようなエビデンスの活用こそが、マネジメントに課された課題です。

                                  株式会社ウエルビー 
                                  代表取締役 青木正人

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