2022年4月号

医療・介護の生産性論議の核心とは
公的価格評価検討委員会の議論から

このコラムでも何度か取り上げている岸田文雄首相の「新しい資本主義」について、医療改革の視点から、二木立・日本福祉大学名誉教授が以下のような解説を行っています(「二木教授の医療時評」『文化連情報』2022 年3 月号)。

まず、新自由主義は、極めて多義的で、学問的にも、政治的にも合意はないため、「市場原理(至上)主義」とほぼ同義であるという前提を置くと、「新自由主義からの転換」を標榜する岸田首相の新自由主義の定義は、この穏健版(?)と言えると述べています。
そのうえで、医療・社会保障改革には、次の3つのシナリオが考えられるとしています。
医療・社会保障も市場原理・市場メカニズムに基づいて改革する《経済官庁・経済界》
国民皆保険制度の大枠は維持しつつ、部分的な公私2 階建て制度に再編成する《厚生労働省》
公的医療費・社会保障費用の総枠拡大し、ヨーロッパ並みの医療費水準にする《日本医師会など医療団体・医療関係者》

ここから、小泉政権以降の医療政策には「新自由主義的医療改革」が含まれるが、改革の中心は②の伝統的な医療費抑制政策であり、新自由主義的改革はごく一部しか実施されていない、というたいへん納得のいく主張が展開されています。
【労働の資本への代替】

こうした観点から、「新しい資本主義実現会議」の下に置かれている「公的価格評価検討委員会」の議論を検討してみると、たいへん重要な視点が浮かび上がってきます。

公的価格評価検討委員会では、昨年末に中間整理が行われましたが、多くのメディアは「財源の確保策は示されず、抜本的な見直しとはほど遠い」(「朝日新聞」12/22)と評しています。

確かに、中間整理では具体策にはたどり着いていませんが、その後の第4回会合 (3/15開催)では、委員から注目すべき次のような指摘や意見が示されました。

秋田喜代美・学習院大学文学部教授の「保育や介護、障害福祉等の分野では、生産性を向上するという論点ではなく、教育や保育、福祉の質の向上というQOLをいかに高めるかという議論が大事」という指摘に続けられた、権丈善一・慶應義塾大学商学部教授による、おおよそ次のような発言です。

●この会議で検討されている生産性(=産出量/投入量)は、付加価値生産性(=付加価値額/労働量:労働生産性の場合)ではなく、物的生産性(=産出量/労働量)、サービス業でいえばサービス生産性である
●このサービス生産性の分子には、量ではなくサービスの質、QOL、患者の満足度などの質がくる(サービス生産性=サービスの質/投入量)
●経済学の等量曲線(同じ生産量を産出するのに必要な労働と資本という要素の組み合わせを示した曲線)という概念を援用し、一定の「等質曲線」を用いて(質一定の曲線上をシフトして)ICTやロボットを活用して労働力を減らしながら、労働を資本のほうに切り替えていく(労働の資本への代替)議論が必要

こう考えると、労働力不足という介護事業における最大の課題を解決するための議論の道筋が明確に見えてきます。
すると、注目の人員配置基準の緩和論議についても、同様に重要な指針となることは明らかでしょう。

                                  株式会社ウエルビー
                                  代表取締役 青木正人

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