負担の議論を避ける政治に未来を託せるか!?(2024年3月号)

負担の議論を避ける政治に未来を託せるか!?
出生数50万人割れに直面する日本

先月末、また人口動態に関する厳しい状況が明らかになりました。
厚生労働省が発表した「人口動態統計」によると、2023年の出生数(外国人含む速報値)は75万8631人で、前年から5.1%減、8年連続の減少で過去最少を更新しています。。
減少ペースは想定より速く、この傾向が続くと2035年にも50万人を割るとされています。
先月のコラムでも引用したように、民間有識者でつくる「人口戦略会議」の「人口ビジョン2100」によれば、2100年には人口は半減し、6300万人程度になると見込まれています。

出生数の予測 出典:「日本経済新聞」2月28日付朝刊

人口減、少子化対策は、何をおいても最優先で取り組むべき国家的な課題です。
今通常国会には「子ども・子育て支援金制度」の創設などを盛り込んだ「子ども・子育て支援法」の一部改正法案を提出されています。
予算委員会で審議が行われていますが、支援金の負担額について、岸田文雄首相は「公的保険の加入者1人あたりの拠出額は月平均500円弱になるが、賃上げと歳出改革によって負担軽減を行うため、実質的な負担は生じない」と答弁しています。
一方、加藤鮎子こども政策相は「1人あたりの負担額が月1,000円を超える可能性がある。所得や保険制度の種類に応じて変わってくる」と答弁しました。
現に民間の試算では、協会けんぽや健保組合は被保険者1人当たり労使合計で月額1,000円を超えるとされています(図参照)。

子ども・子育て支援納付金の全体像 出典:「労働新聞」2月29日付

子ども・子育て支援の拡充に財源が必要なのは当たり前です。
岸田首相の「実質的な負担は生じない」という主張に納得している国民は、果たして何人いるでしょうか。
歳出改革と賃上げによって実質的な社会保険負担軽減の効果を生じさせ、その範囲内で(制度を)構築していく、という意味のようですが、負担額から賃上げ分を除いて「実質負担ゼロ」になると言われても「ハイ!分かりました」とは言えないでしょう。
民間の企業が個別に判断・決定するはずの賃上げ分を財源に組み入れる、という論理は破綻しています。
大手企業はともかく、支援金で保険料の負担が増す中小・零細企業が十分な賃上げを実現できるのでしょうか。

そもそも国民負担率は、租税と社会保険料の負担合計を国民所得で割って求められます。
国民所得は、分配面から見たGDP(国内総生産)に等しいものです。
賃金の変化は、企業と労働者との間の分配に影響を与えるものの、GDPや国民所得には直接的には影響を与えないため、賃金が変化しても国民負担率は変化しません
これでは、虚言を弄していると批判されても仕方がないでしょう

未曾有の少子化に対処するには、少なからぬ財源が必要なことは間違いありません
ならば、過大な負債を背負ったわが国は、相応の国民負担を求めるのは当然ではないでしょうか。
政策の理念や必要性、期待される効果などを丁寧に説明し、国民負担への理解を求めることが政府の役割のはずです。
少子化対策の財源に医療保険の仕組みを利用することの是非は、些末な問題と言えるでしょう。
真正面から「増税」も選択肢の一つとして、国民に投げかけてもよいはずです。

ところが政府は、一向に負担増の議論に向き合おうとしていません。
そうした姿勢は、国民に不信や疑念を抱かせ、主張の違いによる分断を煽るだけです。
判断・決定するのは国民です。
与野党ともに、将来にわたる政治の責務を重く受け止め、真摯に国民に向き合うときです。

株式会社 ウエルビー代表取締役 青木正人

1955年富山県生まれ。

1978年神戸大学経営学部経営学科卒業。

大手出版社の書籍編集者を経て、出版社・予備校・学習塾を経営、その後介護福祉士養成校・特別養護老人ホームを設立・運営する。自治体公募の高齢者・障害者・保育の公設民営複合福祉施設設立のコンペティションに応募し当選。 2000年有限会社ウエルビー(2002年に株式会社に改組)を設立し、代表取締役に就任。

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