少子化対策財源議論を分断の火種にするな! (月刊コラム6月号)

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少子化対策財源議論を分断の火種にするな! 社会全体で子育てを支えていく意識を

少子化対策の財源確保巡り、医療保険や介護保険などの社会保険料に上乗せする政府案が議論の的になっています。

5/29付けの日本経済新聞でも「保険料上乗せ『反対』69% 少子化対策の財源確保巡り 高齢層も批判的」という見出しで世論調査結果を報道しました。
5/25には、三師会(日本医師会・日本歯科医師会・日本薬剤師会)、日本看護協会、四病院団体協(日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院協会)、全国医学部長病院長会議、全国老人保健施設協会、全国老人福祉施設協議会、日本認知症グループホーム協会が連名で「こども・子育て、少子化対策は大変重要な政策ですが、病や障害に苦しむ方々のための財源を切り崩してはなりません」という声明(医療・介護における物価高騰・賃金上昇への 対応を求める合同声明)を公表しています。

3月のコラム「社会保障あげて少子化対策を 希望ある社会創造は全世代の責務」でも述べたように、「医療保険は病気のリスク、介護保険は介護が必要な状態に陥るリスクをヘッジするものなのに対し、子どもが生まれることはリスクではない、という反発や疑問」が出るのは当然だと思います。
こうした反対論の中には、三原 岳・ニッセイ基礎研究所主任研究員の「少子化対策の主な財源として社会保険料は是か非か-社会保障の「教科書」的な説明から考える」といった傾聴に値する論考もありますが、多くは感情的な反発から生まれているのではないかと感じています。

一方、賛成論者の中には、日本の社会保障給付においては、高齢期向けの支出の割合が非常に高く、子育てに関する支出の割合が極めて低いため「高齢者向け社会保障の財源から持ってくるのは当然」といった考えの人も見受けられます。
【OECD諸国の社会保障給付費の国際比較】出典:” OECD Social Expenditure – Aggregated data 2019 “

しかし実際には、左図のように社会保障費に占める高齢者向けの支出を対GDP比で見れば、日本はOECD諸国の中で決して高いわけではありません。
GDPに占める社会保障給付全体の割合が小さいために、高齢者向けの社会保障支出が突出しているように見えてしまうからです。こうした、子育て対策に関する財源問題が誤った方向に進んでしまうことは、社会の二極化を助長する大きなリスクを孕んでいます。
現状の高齢者給付を守ることにだけ固執すれば、若い人たちの賛同は得られません。
また、高齢者に対する保障を削減することが目的になってしまうと、必ず高齢期を迎える若い世代にとっても希望の持てる生活設計を描くことができなくなります。
高齢層と若年層、子どもを持つ家庭と持たない家庭の対立を煽ることは、分断を生みこそすれ、なんのメリットも生み出しません。
「社会全体で子ども・子育てを支えていく意識の醸成」を本気でめざさなければ、わが国の社会保障の将来に希望の光は見えてこないでしょう。

税という財源の選択肢を排除している政府は、本日(5/1)公表される「こども未来戦略方針」の素案には財源確保の具体案を示さず、「年末までに結論を得る」とする予定です。                                

株式会社 ウエルビー代表取締役 青木正人

1955年富山県生まれ。

1978年神戸大学経営学部経営学科卒業。

大手出版社の書籍編集者を経て、出版社・予備校・学習塾を経営、その後介護福祉士養成校・特別養護老人ホームを設立・運営する。自治体公募の高齢者・障害者・保育の公設民営複合福祉施設設立のコンペティションに応募し当選。 2000年有限会社ウエルビー(2002年に株式会社に改組)を設立し、代表取締役に就任。

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