「なりわい」の再建に必要な国民的議論(2024年2月号)

「なりわい」の再建に必要な国民的議論
能登半島地震から見えるもの

先月初旬、民間有識者でつくる「人口戦略会議」が、「人口ビジョン2100」を発表しました。
2100年には、わが国の人口は半減し、6300万人程度になると見込まれています。
同会議は、少子化対策などで8000万人台で安定させる目標をかかげ、人口が減っても成長できる社会をめざすとしています。

また、総務省は先月末、住民基本台帳に基づく2023年の人口移動報告を発表し、東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)では、新型コロナウイルス流行下で鈍った転入者が反転し、転出者を上回る「転入超過」となり、2023年の転入超は流行前にあたる2019年の85%まで戻りました。
東京一極集中が、再び強まっています。

高齢化、過疎化が進む能登半島を襲った大規模地震は、こうした状況の陰の部分を浮かび上がらせることになりました。
国立社会保障・人口問題研究所が昨年公表した「地域別将来推計人口」によれば、2020年に113万2,526人だった石川県の人口は、将来的に県内全19市町で減少し、2040年までに100万人を割り込むとの見通しが示されています。
特に、奥能登4市町(珠洲市、輪島市、能登町、穴水町)で減少幅が大きく、2050年の人口は、2020年に比べ半減し、珠洲市と能登町は4割未満に落ち込むと見込まれています。

出典:「人口ビジョン2100」

能登半島が、阪神淡路大震災や東日本大震災と様相が異なって見えるのは、復興に関して多様な発言や主張が展開されているからです。
意見の一部を、以下に挙げてみます。
米山隆一氏(立憲民主党)、維持困難な能登の被災地「復興より移住」論に賛否「今じゃない」「必要」-「産経新聞」1/11
能登半島地震であえて問う、20年後に消滅する地域に多額の税金を投入すべきか。人口減少の日本で問われる、何がどこまで公費で救済されるべきかの線引き(山本一郎:財団法人情報法制研究所事務局次長・上席研究員)-「JBプレス」1/11
能登半島地震、地方自治体から希望を奪わない復興が必要(田原 総一朗)-「日経ビジネス」1/18
能登の震災1カ月 住民本位の復興 歩む道を「朝日新聞デジタル」2/1

「地震前から維持が困難になっていた集落では、復興ではなく移住を選択すべき」
「1兆円あまりの復興費用は税金であり、社会保障費そのもの。いつまでも公費で地域丸ごと被災者を助け続けることはできない」
「重い決断を迫られる被災者が欲するのは、住み慣れた地が今後どうなるのかという見通しだ。地域の復興をめぐる議論も進めていきたい」
「復興の最大の目的は、住民の幸福である。それができなければ、地方自治体は国を信用しなくなるだろう」

過疎地に多額の公費を投入して復興をめざすべきかが、論争となっています。
復興の可否を費用対効果でのみ論じていいのでしょうか。
インフラへの投資を客観的指標だけで評価するのは困難です。
政府は最近、生業(なりわい)という言葉を好んで使い始めていますが、それは「金を稼ぐ」という意味ではなく、生活をさせていく営みということを表しているはずです。

復興に欠かせない生活インフラには、電気、ガス、水道や交通設備、通信サービスだけでなく、医療や福祉、介護などのソフトウェアも含まれます。
今度の震災で、そうしたインフラは大きく傷つき、医療職や介護職はたいへんな困難に面しています。
しかし、医療、福祉、介護の存在が、地域の大きな支えになっているのも間違いのない事実です。
こうしたセクターの本質は、なりわいそのものといえます。

被災地や過疎地も含めて、この国のあり方を決めるのは、一部の為政者や専門家と称される人たちだけではありません。
事実を冷静に見据え、希望の持てる将来を実現するための国民的議論を進めていこうではありませんか。

株式会社 ウエルビー代表取締役 青木正人

1955年富山県生まれ。

1978年神戸大学経営学部経営学科卒業。

大手出版社の書籍編集者を経て、出版社・予備校・学習塾を経営、その後介護福祉士養成校・特別養護老人ホームを設立・運営する。自治体公募の高齢者・障害者・保育の公設民営複合福祉施設設立のコンペティションに応募し当選。 2000年有限会社ウエルビー(2002年に株式会社に改組)を設立し、代表取締役に就任。

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