2020年9月号
政策というフレームでは解消できない今日性に向き合う
介護事業から生まれる世界的課題解決の糸口
先月号の本コラムで「シナリオ・プランニング」(Scenario Planning)という手法をご紹介しました。
新型コロナウイルスによるパンデミックのもと、企業のみならず政治、行政、教育などあらゆるセクターにおいて、不確実な未来に備えるために従来とは異なったプランニング手法が模索されています。
政府の知的財産戦略本部においても「経営デザインシート」と呼ばれる、価値創造のメカニズムを機動的・継続的にデザインしてイノベーションを創出するツールが紹介されています。
【経営デザインシート】
環境変化を見据え、自社や事業の「これまで」の理解に基づき「これから」を構想する目的で、
環境変化に耐え抜き持続的成長をするために、自社や事業の
● 存在意義を意識した上で
●「これまで」を把握し
●長期的な視点で「これから」のありたい姿を構想し
●それに向けて今から何をすべきか戦略を策定する
―ことで、将来を構想するための思考補助ツール(フレームワーク)です。
存在意義やありたい姿という「これから」を、「これまで」の延長線で考えるのではなく、未来からバックキャストして考える手法と言えます。
しかし、多くの企業において、従来から「理念」の重要性は指摘されており、そこから戦略を導き出していくという手法を採っている組織・企業は決して少なくありません。
このフレームワークでは、不確実性がこれまでになく増大していく、現在そしてこれからのような状況に対応することは困難だと思われます。
端的言えば、「結果が予測できる」ことを前提にした理想(should:~になるべきだ)という未来予測は、機能不全に陥る危険性が高いといえます。
医療・介護の領域においては、とりわけ介護事業でその傾向が顕著です。
医療においては、クリニカルパスが機能する場面は多々あります。
しかし、介護事業の対象である「私たちの生活」ないしは「生活課題」そのものが、複雑で複合的な性質をもっている(エコシステム)ため、地域包括ケアや地域共生社会という理念やビジョンが正しい方向だとしても、政策というフレームだけでは解消できないという決定的な困難さがあります。
つまり、介護事業において必要なプランニング手法は、現在のところシナリオ・プランニングに勝るものはありません。
ここに、介護事業の複雑性と今日性が凝縮されています。
翻って言えば、介護事業にこそ複雑な世界を切り拓いていく大きな可能性が見えています。
望ましい未来を共創するという課題を解決するカギは、この業界にこそ満ち満ちているといえるのではないでしょうか。
株式会社ウエルビー
代表取締役 青木正人