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月刊コラム

2021年12月号

2021年12月号

福祉・介護・看護職の賃上げは成長に逆行!?
私たちは、なにをめざすのか

11月19日、政府は「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」を閣議決定し、過去最大の総額55兆円余りの財政支出を発表しました。
この経済対策のねらいを、「未来社会を切り拓く『新しい資本主義』の起動」と位置づけた上で、「経済を成長させ、その果実を原資として分配に取り組むことで、国民の皆様の所得を幅広く引き上げ、更なる成長」につなげる「成長と分配の好循環」の実現にあるとしています。

「分配戦略 」の「公的部門における分配機能の強化等」の項目では、「看護、介護、保育、幼児教育など現場で働く方々の収入の引上げ等」を掲げました。
具体的には、来年2月から
●保育士や介護職に関しては、全員を月3%程度(9,000円)上げ
●看護師については、新型コロナウイルス感染症の治療に対応する医療機関などに勤務する看護師に限り、1%程度(月額 4,000 円)の処遇改善を図り段階的に3%程度まで引き上げ
としました。
厚生労働省補正予算案によれば、 1665億円が計上されています。
金額の多寡ではなく、この施策が真に「成長と分配の好循環」を生むことになるのでしょうか。

大和証券シニアエコノミストの末廣徹氏は、「医療・介護・福祉の公的価格引き上げは成長に逆行-岸田首相『「新しい資本主義』の本気度が試される」という刺激的なタイトルで、11月19日付の「東洋経済online」に寄稿を行っています。
【実質労働生産性と就業者数の変化の関係】出典:末廣 徹「東洋経済online」

同氏の主張は、以下のようなもです。
「保健衛生・社会事業」の雇用者数が1%増加すると、他の業種の雇用者数は減少し、経済全体の実質労働生産性が約0.5%低下する。
「保健衛生・社会事業」就業者の全就業者に占める割合は、2019年に約12.5%だったものが、2030年には15.1%程度、2040年には17.5%程度に上昇し、実質労働生産性を年当たり約0.1%押し下げる。
つまり、介護や福祉、看護の従業者の賃金を上げても、成長につながるどころかマイナスに作用し、この「分配は成長をもたらさない」というものです。
仮にこの主張が学術的な正しいとすれば、この賃上げは間違った政策なのでしょうか。

先月のコラム「『新しい資本主義』への期待と不安 遠大なアジェンダを突破する力」でも述べた通り、「新しい資本主義とは何を指すのかよくわからない、実現後のイメージが伝わってこない」という点に帰着するのではないかと思われます。
たとえば、「新自由主義から決別」を標榜しているはずの岸田文雄首相が、新自由主義の代名詞とも揶揄された「アベノミクス」と同じ論理と政策を提示しているからです。

けれども、光明も見え隠れしています
これも先月のコラムで述べたように、「端からムダだと冷ややかにとらえている」わけではありません。
現実に、第1回「新しい資本主義実現会議」においても、「成長の定義を、Inclusive Wealth(経済資本+⼈的資本+自然資本)としてはいかがか」「GDPの追求だけでは限界があり、短期的な経済発展のみならず、持続可能性にも焦点を当て、多様な資本の充実を図り、⼼の豊かさや成長の持続可能性を実現すべき。成長の定義をより広範なものとする議論が必要と考える」とする意見が提出(平野未来・株式会社シナモンCEO)されています。

第2回新しい資本主義実現会議で採択された「緊急提言~未来を切り拓く『新しい資本主義』とその起動に向けて~」には、「今こそ、古い経済社会の慣行や規制・制度の改革に取り組むことで、コロナとの共生を前提とした、新しい社会を創り上げていく必要がある」とあります。
「How:どういう手段で実現するか」ではなく、「What:私たちは、なにをめざすのか」「Why:私たちは、なぜその姿をめざすのか」を対話し、議論することが国民全体に求められています。

                                  株式会社ウエルビー 
                                  代表取締役 青木正人

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