社会保障あげて少子化対策を (月刊コラム3月号)
社会保障あげて少子化対策を
希望ある社会創造は全世代の責務
2/28厚生労働省は、人口動態統計の速報値を公表し、2022年の出生数が前年比5.1%減の79万9728人だったと発表しました。
統計を取り始めた1899年以降、初めて80万人を割ることになります。
国立社会保障・人口問題研究所の推計では、基本的なシナリオ(出生中位)の場合に出生数が80万人を下回るのは2033年とされていましたが、実際には11年も前倒しとなったわけです。
【出生数の推移】出典:日本経済新聞(2023年3月1日朝刊)
結婚から出生までの平均期間は2年数か月とされており、新型コロナウィルスによりここ数年結婚数が減っていることが、出生数急減の最大の要因と見られます。
「次元の異なる少子化対策」を掲げる岸田文雄首相のもと、衆議院予算委員会では子ども関係予算倍増を巡り論戦が続いています。
しかし、官房副長官の「子どもが増えれば予算は倍増する」という発言を巡ってのやりとりが目立つなど、本質的な審議が行われているかどうか疑わしいのが現状です。
昨年末にまとめられた「全世代型社会保障会議報告書」では、「少子化・人口減少の進行は…多くの地域社会を消滅の危機に導くなど、経済社会を『縮小スパイラル』に突入させる…まさに国の存続そのものに関わる問題」だと危機感をあらわにしています。
対策としては、「出産家庭に対しする10万円相当の支給」や「出産育児一時金を引き上げ」さらには「児童手当の拡充」などが予定・検討されています。
しかし、たとえば出産家庭への10万円相当の支給を実施するには毎年度1000億円規模の予算が必要となります。
また、中学卒業まで、子ども1人当たり月1万~1万5千円支給している児童手当を高校まで延長したり、所得制限をなくしたり、あるいは第2子、第3子にさらに多くの額を支給するなどの施策には、兆円単位の予算が必要になるとされます。
同じように財源が課題視されている防衛費については、2027年度以降に必要となる年4兆円の増加分のうち、1兆円強を法人税などの増税でまかなう考えが示されました。
一方、子ども予算にはそうした中長期の計画や枠組みがありません。どうやって予算を倍増するのでしょうか。
財源に関する議論なしに前に進むことは、誰が考えても不可能です。
【子育て支援連帯基金のイメージ】出典:権丈善一『ちょっと気になる政策思想』
財源をめぐる新たな枠組みとして注目されているのが、医療や年金、介護保険などの公的な保険財源から一定額ずつ拠出してもらい財源とする「子育て連帯基金構想」です。
この構想には、政府が運営する公的保険は、年金は長生きのリスク、医療保険は病気のリスク、介護保険は介護が必要な状態に陥るリスクをヘッジするものなのに対し、子どもが生まれることはリスクではない、といった反発や疑問もあります。
この案の提唱者の権丈善一・慶應義塾大学商学部教授は「社会保障というのは、基本的には現役世代が生産した付加価値を分け合う仕組みです。だから、積立方式、賦課方式のいずれを採っても、年金や医療、介護の制度は、将来の世代の元気の良さに依存しています。そこで、これら年金、医療、介護の公的保険制度が、自らの制度の持続可能性を高めるために『子育て支援連帯基金』に拠出して、子育てを支える。年金、医療も、介護も、要は、高齢期に負担が集中しないで済むように、消費の平準化を行う制度」と述べています(「みんなで支える『子育て支援連帯基金』構想」 2021年1月27日 m3.comインタビュー)。
医療も年金も介護も、保険料を払っている人は、自分の分を積み立てて使っているわけではありません。
若い人たちがおさめる保険料や税金が、そのときの高齢者に使われているのです。
新しい世代が生まれ、育ち、働いてもらって、はじめて社会保障の仕組みは成り立ちます。
給付や保育の質を向上させることによって、若い人たちの不安を減少させ、出産や子育てに前向きになれる希望のある社会を生み出すのは私たちすべての責務でしょう。
株式会社 ウエルビー代表取締役 青木正人
1955年富山県生まれ。
1978年神戸大学経営学部経営学科卒業。
大手出版社の書籍編集者を経て、出版社・予備校・学習塾を経営、その後介護福祉士養成校・特別養護老人ホームを設立・運営する。自治体公募の高齢者・障害者・保育の公設民営複合福祉施設設立のコンペティションに応募し当選。 2000年有限会社ウエルビー(2002年に株式会社に改組)を設立し、代表取締役に就任。