介護DXを阻むのは自治体!?(月刊コラム5月号)
介護DXを阻むのは自治体!?ローカルルール根絶は途半ば
先ごろ財務省の財政制度等審議会の歳出改革部会が、「介護DX(デジタルトランスフォーメーション)」を阻む要因に、自治体のローカルルールがあると指摘しました。
「人手不足等に課題を抱える介護業界においても、DXによる生産性向上の先進的な取組が存在。こうした取組を業界全体の生産性向上につなげるためにも、自治体独自のルールの見直しに留まらず、制度間の障壁の見直し等、DX先進事業者の目線で徹底的に規制・制度改革を推進するべき」と課題を示しました。
厚生労働省も、3月に介護保険施行規則および関連告示の改正を実施し、2024年4月1日から「指定申請・報酬請求・実地指導関連文書について国の定める標準様式を用いることを原則とする」というルールを明確化しました。
先月には、介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門委員会による「地方公共団体における独自ルールの有無、内容を整理し公表を行うべき」というとりまとめを受けて、「介護分野の文書の簡素化・標準化・ ICT化に関する調査研究事業」(厚生労働省老人保健健康増進等事業/三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社 )の結果が、以下のように公表されました。
【総合事業の指定申請等に係る様式例の利用状況】出典:「介護分野の文書の簡素化・標準化・ ICT化に関する調査研究事業」
標準様式については、2022年10月時点で総合事業の指定申請について、「国の定める標準様式に手を加えずに使用している」自治体が34.1%、「国の定める標準様式を用いるが、一部手を加えている」自治体が28.4%、「一部の文書のみ国の定める標準様式を用いてる」自治体が6.3%、「一部の文書について、国の定めた標準様式に手を加えて使用している」自治体が15.0%、「標準様式は使用していない」自治体が15.0%という結果となりました。
また、加算の届け出については、「国の定める標準様式に手を加えずに使用している」自治体が55.9%、「国の定める標準様式を用いるが、一部手を加えている」自治体が30.9%、「一部の文書のみ国の定める標準様式を用いてる」自治体が2.1%、「一部の文書について、国の定めた標準様式に手を加えて使用している」自治体が5.3%、「標準様式は使用していない」自治体が5.3%となっています。
この結果を、かなり標準様式の使用が普及したと考えるか、まだ浸透しているとは言えないと感じるかは、受け取り方に違いはあると思いますが、広域で事業を展開している介護事業者にとっては、たとえ様式の一部でも国の標準様式に修正が加えられれば、事務負担は軽減しないというのが事実です。
総合事業の指定申請において、国の標準様式をそのまま使わず、手を加えて使用する理由については、「対応作業に時間を要するため」と回答した自治体が58.6%、次いで「事務処理上必要性を感じないため」が20.1%となっています。
次のような回答がありました。
また、加算において、国の標準様式を、手を加えて使用する理由については、「事務処理上必要性を感じないため」が49.5%、次いで「対応作業に時間を要するため」と回答した自治体が36.6%でした。
そもそも必要性を感じない事業者がかなりの割合で存在するのは、由々しきことだと感じます。
介護事業者の負担を減らすためという観点ではなく、自治体が考える負担軽減を行っていることは問題です。
財務省の指摘通り、「事業者目線での規制・制度改革」が何より求められます。
株式会社 ウエルビー代表取締役 青木正人
1955年富山県生まれ。
1978年神戸大学経営学部経営学科卒業。
大手出版社の書籍編集者を経て、出版社・予備校・学習塾を経営、その後介護福祉士養成校・特別養護老人ホームを設立・運営する。自治体公募の高齢者・障害者・保育の公設民営複合福祉施設設立のコンペティションに応募し当選。 2000年有限会社ウエルビー(2002年に株式会社に改組)を設立し、代表取締役に就任。