介護サービスの需給ギャップは解消できる!? (月刊コラム4月号)
介護サービスの需給ギャップは解消できる!? 日本が国際課題解決のパイオニアに
ごろ三菱総合研究所が、「介護のデジタル化が介護難民を救う」と題する研究を発表しました。
深刻化する「介護難民」の問題解決に、介護のデジタル化がどの程度寄与するか試算し、介護のデジタル化に向けたボトルネックの解消方策を提言しています。
この研究では、デジタル化の普及率を50%と16%の2つのシナリオに分けてシミュレーションを行いました。
【デジタル化による需給ギャップの解消】出典:「介護のデジタル化が介護難民を救う」三菱総合研究所
介護現場へのデジタル化の浸透が、アーリーマジョリティ(流行の商品やサービスは気になるものの、購入に至るまでに情報収集を進めて、慎重に決めたい人々)まで進むと普及率は50%となり、アーリーアダプター(世間や業界のトレンドに敏感であり、常日頃からアンテナを張り情報を収集し、判断を行う人々)に留まる場合の普及率は16%だとしています。
普及率が前者のようになった場合、予防医療による需要減で22.6万人、デジタル化による生産性向上で33.0万人、処遇改善による人材純流入で15.3万人の合計71.9万人となり、厚生労働省が69万人と推計した介護サービスの需給ギャップは埋められる、という試算を示しました。
このシミュレーション通りの結果が実現すれば、たいへん結構なことではありますが、ことはそう容易ではありません。
デジタル化普及のボトルネックは
➀ 小規模事業者の多さ
② 介護報酬制度の基本的な考え方
の2点にあるとしています。
こうしたことから、「デジタル化への投資余力の少なさ」や「業務効率化へのインセンティブ不足」が生じます。
いずれも介護事業の構造的問題に根差しているため、一朝一夕に解決できるものではありません。
「デジタル化の普及率の算出方法が明確ではない」といった疑問や批判も寄せられているようです。
しかし、この試算がどの程度精密かどうかという信頼度への疑問はあるにせよ、近未来の介護サービス最大の課題である需給ギャップ解消へ向け、科学的な道筋をつけようとする試みは大いに歓迎すべきではないかと考えます。
急速な高齢化の進展と若年層の減少による社会的危機は、遠からずわが国のみならずグローバルな課題となることは疑いがありません。
高齢化先進国の日本が、課題解決の糸口を見出すきっかけを生み出すことを期待したいと思います。
株式会社 ウエルビー代表取締役 青木正人
1955年富山県生まれ。
1978年神戸大学経営学部経営学科卒業。
大手出版社の書籍編集者を経て、出版社・予備校・学習塾を経営、その後介護福祉士養成校・特別養護老人ホームを設立・運営する。自治体公募の高齢者・障害者・保育の公設民営複合福祉施設設立のコンペティションに応募し当選。 2000年有限会社ウエルビー(2002年に株式会社に改組)を設立し、代表取締役に就任。