大谷翔平は介護事業を救う!? (2022年7月号)
大谷翔平選手が介護事業を救う!?
業界に必要なフライボール革命
今シーズンのメジャーリーグ(MLB)も大谷翔平選手の投打にわたる活躍で目が離せませんが、大谷選手以外にもホームラン数、飛距離を飛躍的に伸ばしているプレーヤーが多数います。
下のグラフは、MLB全球団の総ホームラン数の推移を表したものです(新型コロナの影響を受けなかった2019年シーズンまで)。ファンの方はご承知のように、ゴロを打つのを避け、打球に角度をつけて打ち上げることを推奨する「フライボール革命」と呼ばれる打撃理論(速度98マイル(約158㎞)以上で26~30°の角度で飛び出した打球が安打になる確率が最も高い)がMLBを席巻し、ホームラン数の爆発的な増加を生み出したからです。
【メジャーリーグのホームラン数推移】出典:Baseball-Reference.com
このフライボール理論は、選手やボールの動きを記録・数値化する動作解析システム “Statcast”(スタットキャスト)がもたらした「データ革命」と呼んでも過言ではありません。このシステムが、MLB全球団に導入されたのが2015年のシーズンであることからも明らかです。野球以外のスポーツでもデータ活用は、もはや当たり前、将棋の世界では、すでにAIが人間を凌駕しています。
こうしたパラダイムのシフトを目の当たりにすると、医療や介護の世界でもICT化やDXは避けては通れないだけではなく、より積極的な活用が必須です。「読み書き算盤、『ICT』」は、社会生活の基礎能力と言っても過言ではありません。
算盤に頼ったビジネスが消え去ったように、デジタルを活用できない事業者は医療や介護の世界でも生き残りは至難の業です。というよりデジタルネイティブが40代を迎えた現在、アナログに依存した職場に好んで働くとは想像できません。
【介護職のイメージ】介護業界への就業に関する意識調査(リクルート)を改変
グラフをご覧ください。介護関連資格を持ちながら介護未就業者を対象に介護職のイメージをたずねたアンケート結果です。5割以上の回答者がIT化の遅れを指摘しています。業界のDX化は、こうした層の介護事業への就業促進に寄与することが期待できます。
まずはICT化の先端を行くというのが、今後の介護事業の「王道」と言えるでしょう。一方、プロスポーツの世界では優勝、No.1が至上命題ですが、人々の生活を支えるという世界では記録より記憶という価値も重要です。事業規模や売り上げの多寡が唯一無二の目的とはなり得ない事業です。
そこから導かれるもう一つの道は、徹底したアナログ、手作業にこだわり続ける道です。この道を究めれば、とりわけ介護の世界では、たいへん大きな評価や成果を生み出す可能性は否定できません。しかし、とてつもなく困難な道です。事業の拡大は言うに及ばず、継続性という面でのタフさは伝統産業や伝統技能と同様です。私たちがめざすのは、大谷選手のようにデジタルテクノロジーを基盤にしながら、ヒューマンタッチをいかに表現するかという「第三の道」ではないでしょうか。
株式会社 ウエルビー代表取締役 青木正人
1955年富山県生まれ。
1978年神戸大学経営学部経営学科卒業。
大手出版社の書籍編集者を経て、出版社・予備校・学習塾を経営、その後介護福祉士養成校・特別養護老人ホームを設立・運営する。自治体公募の高齢者・障害者・保育の公設民営複合福祉施設設立のコンペティションに応募し当選。 2000年有限会社ウエルビー(2002年に株式会社に改組)を設立し、代表取締役に就任。