構造的な人材不足を断ち切る方策は(2023年7月号)
構造的な人材不足を断ち切る方策は! 医療・介護のダイナミズムを活かせ
私の事務所では、睡眠の質を高める効果があるとされているヤクルト1000を宅配で購入しています。
毎週届けてもらっていたのですが、先月から2週間に1度になりました。
ヤクルトレディの不足が理由だそうです。
物流の2024年問題に限らず、各産業セクターで人手不足が深刻になっているのを肌で感じます。
6/20付けの日本経済新聞では「成長力を取り戻す サービス業 需給両面で支援」という見出しで、向山敏彦・ジョージタウン大学教授が、GDPと総雇用者数に占める製造業と「成長3産業」の付加価値と雇用のシェアの年次推移を示しています(下図参照)。
【GDPと総雇用者数に占める製造業と成長3産業のシェア】出典:「日本経済新聞」6/20朝刊
成長3産業というのは、筆者が名付けた、国民経済計算(SNA)に従ったの経済活動分類で、1999~2019年の間に製造業以外でGDPに占めるシェアが1ポイント以上上昇した産業である「情報通信業」「専門・科学技術、業務支援サービス業」「保健衛生・社会事業」の3つをいいます。
GDPに占める付加価値のシェア示す実線のグラフからは、製造業はいまだに重要な位置を占めていますが、シェアは横ばいなのに対して、成長3産業のシェアは上昇し続けて、重要性は製造業に並ぶまでになっています。
総雇用者数の中での雇用のシェアを示す点線(雇用の動きを「労働力調査」から計算)は、さらに明確で、成長3産業の雇用シェアが大きく上昇しているのに対し、製造業の雇用シェアは縮小しています。
成長3産業の中でも、とりわけ「医療・福祉産業」(医療、保健衛生、介護を含む)の雇用の増加が著しいことが指摘されています。
日本経済新聞の実施した「社長100人アンケート」(7/3付け朝刊)によれば、自社の人手が足りていないと感じるという回答が8割を超え、すでに4割が来春の賃金改定を考えています(下図参照)。
【2024年春の経営者の賃上げ動向】出典:「日本経済新聞」7/3朝刊
引き上げ水準について見ると、「4%台」が最多で28.6%、6割が3%以上引き上げる意向を示しています。
同紙は、「歴史的な賃上げが相次いだ2023年の平均賃上げ率3.66%並みか、それ以上の水準に達しそうな勢い」表現としています。
一般の労働市場では、需要が伸びている産業で賃金が継続的に上昇すれば、新たな労働者が流入します。
しかし、報酬が公定価格である医療・介護産業では、そうはいきません。
公的価格評価検討委員会の「中間整理」(2021年12月21日)には、「処遇改善の最終的な目標は、職種毎に仕事の内容に比して適正な水準まで賃金が引き上がり、必要な人材が確保されていることである。その際、他産業との乖離や有効求人倍率などの労働市場における関連指標の状況を参照するほか、各産業における他の職種との比較や対象とする産業内での各職種間の均衡、仕事の内容、労働時間の長短、経験年数や勤続年数なども考慮すべきである」と記載されています。
介護分野における賃金アップは、処遇改善関連の加算だけに頼ったいびつな施策に見えます。
産業の持っているダイナミズムやイノベーション、従業者のモチベーションを活かすことを忘れているのではないでしょうか。
株式会社 ウエルビー代表取締役 青木正人
1955年富山県生まれ。
1978年神戸大学経営学部経営学科卒業。
大手出版社の書籍編集者を経て、出版社・予備校・学習塾を経営、その後介護福祉士養成校・特別養護老人ホームを設立・運営する。自治体公募の高齢者・障害者・保育の公設民営複合福祉施設設立のコンペティションに応募し当選。 2000年有限会社ウエルビー(2002年に株式会社に改組)を設立し、代表取締役に就任。