介護事業の財務状況の見える化の意義(2023年2月号)

介護事業の財務状況見える化の意義は
エッセンシャルワーカーに貢献感を

日本経済新聞は、1月31日日付朝刊に「看護師・介護士の賃上げ検証 事業者に経営報告義務」という見出しで、「医療法人や介護事業者に対し事業者に経営状況の報告を義務付ける」と報道しました。
これまで進めてきた報酬改定や事業者への補助に対して、現場に行き渡っているかが分かりにくいため監督を強めるねらいがあると伝えています。

社会保障審議会介護保険部会の「意見書」においても、「財務状況等の見える化」の項目を設け「介護サービス事業所の経営情報を詳細に把握・分析できるよう、事業者が都道府県知事に届け出る経営情報について、厚生労働大臣がデータベースを整備し公表」「介護サービス情報公表制度について、事業者の財務状況を公表。併せて、一人当たりの賃金等についても公表の対象への追加を検討」と明記しています。

そもそもこうした見える化が進められる背景には、岸田文雄首相肝いりで全世代型社会保障構築会議に設けられた「公的価格検討委員会」において、介護・障害福祉職員、保育士などが「仕事内容に対して適正な水準まで賃金が引き上がり、必要な人材が確保されていること」を最終目標に掲げたことがあります。

政府・厚生労働省は、処遇改善に関する加算など介護報酬の改定や補助金で賃上げに取り組んでおり、2019年度の介護職員の月額報酬は2008年度に比べ75,000円の引き上げを行ったとしていますが、実際の賃金には十分に波及しておらず、公的価格評価検討委員会がまとめた月額賃金(賞与含む)では、2020年までの8年間の増加額が38,000円にとどまっているとしています。

【介護職員、看護職員の月額賃金と全産業平均】出典:日本経済新聞(2023年1月31日朝刊)

厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、介護職員の2021年の平均月収は256,000円(賞与含まず)で、全産業平均の334,800円を大きく下回っています。
また、全国の介護職員らでつくる労働組合「UAゼンセン日本介護クラフトユニオン」(NCCU)の「2022年賃金実態調査」でも、月給制で働く介護職員の平均は月給が261,018円、年収が3,808,000円と、年収の全産業平均との差は756,300円で、ひと月あたり63,025円となっています。

こうした賃金格差が依然として大きいことの最大の原因が、事業者が処遇改善分の報酬を適正に分配していないことにあるとは思えません。
事業自体の構造に大きな課題があるからです。
公定価格によって報酬の枠が定められている介護事業においては、制度内の収益をアップさせることが極めて困難なことは自明です。

財務状況の見える化や公的価格評価検討委員会の目ざすところは、事業固有構造を明らかにするともに、介護を含むエッセンシャルワークが、日本の社会と国民にどのように価値付加しているのかを見える化することにあると思います。

働く人たちが、感謝されることやほめられるなくとも「貢献感」を感じることができる社会への道筋が見えてくることが必要です。

株式会社 ウエルビー代表取締役 青木正人

1955年富山県生まれ。

1978年神戸大学経営学部経営学科卒業。

大手出版社の書籍編集者を経て、出版社・予備校・学習塾を経営、その後介護福祉士養成校・特別養護老人ホームを設立・運営する。自治体公募の高齢者・障害者・保育の公設民営複合福祉施設設立のコンペティションに応募し当選。 2000年有限会社ウエルビー(2002年に株式会社に改組)を設立し、代表取締役に就任。

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